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2024.11.28

獣医さんと考える「猫の健康とグレインフリー」

獣医さんと考える「猫の健康とグレインフリー」

私たちの大切な家族の一員である猫。
その健康を守るためには、毎日の食事が基本となってきます。皆さま、猫の食事の基本となるキャットフードはどんな基準で選んでいますか?

猫が大好きな原材料を使っているか?製造国はどこなのか?粒のサイズや製造方法にこだわりがあるという方もいるかもしれません。
キャットフード選びを行うにあたって「グレインフリー」であることを重視しているという方も多いのではないでしょうか。

もうすっかりメジャーな言葉になりつつある「グレインフリー」ですが、その意味やメリットについてはインターネット上にはさまざまな情報が出回っています。
果たしてそれは本当に猫にとって最適な選択なのでしょうか?多くの人が知るようになった今だからこそ、改めて知りたい「グレインフリー」のこと。
今回は獣医師の視点から、グレインフリーの利点やリスクを改めて整理してみます。

DOG's TALK

獣医師 菱沼 篤子

獣医師 菱沼 篤子

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです

獣医師が語る猫の健康:グレインフリーの基本とその影響

グレインフリーとは、「穀類を使用していない」という意味です。
つまり、グレインフリーのキャットフードには穀類に含まれる原材料=米や小麦、とうもろこしなどの穀物が一切入っていません。
一般的に小麦、トウモロコシ、オーツ麦、大麦、米など禾穀類(イネ科)が含まれていないものをグレインフリーと定義しています。

かつて、猫用のドライフードとして販売されているものには主な原材料として穀類を使用しているものが見受けられました。しかし、近年では純粋な肉食動物である猫たちには、やはり肉をメインとした食事の方が適しているという考え方が主流になりつつあります。
実際、グレインフリーのキャットフードに使用される主な原材料は、肉や魚といった猫にとって必要なタンパク質を豊富に含む食材です。穀類を多く含む食事と比較して、肉類の方が猫の消化器系では栄養としての活用効率が良いと考えられています。

ただし、グレインフリーでキャットフードを作る場合、栄養成分の調整のほかに粒を固めるために様々な原材料を使用する必要があったり、品質や原材料にこだわっているため、グレインフリーではないキャットフードと比較して価格は高めとなっています。

グレインフリーのメリット:栄養面から見る猫の健康

グレインフリーのキャットフードを選ぶことには、大きく分けて2つのメリットがあります。

■猫らしい食事スタイルを再現する

まずは、猫本来の食性に適した食事であるということです。繰り返しになりますが、獲物を自ら捕食していた猫は"純粋な肉食獣"と呼ばれています。そのため、猫にとってエネルギー源、体づくり両方で重要な役割を担っている栄養がタンパク質と脂質。
人間の栄養学では、エネルギー源として利用できる栄養素は三大栄養素と呼ばれていて、タンパク質、脂質、炭水化物の三つがそれに該当し、これらをバランスよく食事から摂取することが大切だといわれています。
人間はこの3つの栄養をそれぞれ調理という手間を加えることで消化吸収やエネルギー活用をしやすくしています。様々な食事から栄養を取ることができる人間は「雑食」になります。

一方、猫は完全な肉食動物。
野生の猫の仲間は獲物をハンティングして、その生肉や内臓、骨髄などから様々な栄養を摂取しています。肉類ばかりを食べていたので、主にエネルギー源として活用しているのは肉を構成するタンパク質、そして脂質です。
一方、肉には炭水化物はほとんど含まれないため、猫は炭水化物を摂取してもあまり上手に活用することができないと考えられています。



■高タンパク食を与えることができる

グレインフリーのキャットフードでは、第一原材料として肉類を使用することで、タンパク質や脂質を多く含むことになります。脂質が多いと高カロリーな食事になるということにもつながります。
この特徴は、若々しく活発な猫に適しています。
高タンパク質が猫の体の筋肉量を健康的に維持するのに役立つほか、肉類や魚由来の脂質は美しい被毛や成長期にも非常に重要。
ある程度以上の運動量を維持している猫、成長期の猫や元気いっぱいの若い猫ではグレインフリーのキャットフードはぴったりの食事といえそうです。

また、小食で一度に食べることができる量が少ない猫の場合は、少量でも十分なエネルギーを補給できる高脂質の方が適していることが多いようです。

グレインフリーが適さない猫とは

■高齢の猫

実は、グレインフリーキャットフードのように、高タンパクのキャットフードではタンパク質量と比例して「リン」と呼ばれるミネラルの値も高くなる傾向にあります。
リン自体は体内でも骨や歯などを構成するタンパク質で、ある程度の量は健康維持のために必要な栄養素です。一般的に、食事からとりこまれたリンは、不要な分をオシッコとして排出されています。

しかし、高齢の猫のように腎臓の機能が低下した状態だと、オシッコとして上手く輩出されず、体内にどんどん蓄積されていき、さまざまなトラブルを引き起こすようになります。
このことから、慢性腎臓病になってしまった猫はリンを上手く排出できなくなるために「食事中に含まれるリンの制限」が必要になります。

高齢になった猫は、進行するスピードや程度に差はありますが、概ね腎臓の機能が低下していくことが分かっています。
シニア猫の食事は、リンの値を気にして選ぶのも、大切なことの一つです。

■お腹が弱い子には適さない?

グレインフリーのフードは、穀類を使用しているフードと比較すると食物繊維の量が少なかったり、脂質の量が多かったりすることから、ウンチが柔らかくなりやすいという指摘もあるようです。
しかし、これは猫の体質によってまちまちであることから一概には言えないと思います。とはいえ、フードの切り替えを行うときは少量で1週間~2週間以上かけて少しずつフードの切り替えを行うことで下痢や軟便が長引くことを予防することも可能ですので、慎重に行うようにしてくださいね。

獣医師の見解:グレインフリーとアレルギーについて

動物病院などで、よく聞かれる質問で「穀物は猫の食物アレルギーの原因になりやすいから、グレインフリーの方が良いんでしょう?」というものがあります。
インターネットで調べてみると、穀物アレルギーについての情報が多くあり、まるで「猫は穀物にアレルギー反応を起こしやすい」と勘違いしてしまいそうになります。
でも、実際のところ猫の食物アレルギーに関して、穀物がとくにアレルギーを起こしやすい食材であるというデータはありません。

そもそも、猫に限らず人間も長く接触してきたタンパク質ほどアレルギー源になりやすい傾向があります。
ですから、長く穀物を食べてきた猫であれば、それだけ穀物がアレルギー源になる可能性が高くなります。
しかし、同じようにチキンを食べ続けてきた猫はチキンに、サーモンを食べ続けてきた猫はサーモンにアレルギー反応が出やすくなります。穀物だけが優位に猫の食物アレルギーに繋がりやすいということは断言できません。

とはいえ、猫の穀類アレルギーは確かに存在していますので、穀類アレルギーがある猫にとっては穀類を含まないグレインフリーキャットフードは重要な選択肢となります。

おわりに

「グレインフリー」という言葉は、猫の食事選びにおいて一般的になっています。
キャットフードの原材料として、穀物を使用しないという選択は、猫の肉食性に適したものという側面を持つ一方で、年齢や体質によっては適さないことも分かっています。
若い猫や活発な猫には高タンパク質の食事は非常に適していますが、腎臓の機能の低下がみられ始める高齢の猫では、リンの摂取に注意が必要になるため、ある程度の年齢でフードの見直しをすることをオススメしています。
高齢の猫に合わせて、グレインフリーのフードでもリンを制限したレシピもあるので、そういったフードも選択肢として検討してみてください。

また、穀物アレルギーに関しては誤解を招くような情報も多いので、迷ったときは信頼できる獣医師やtamaのコンサルティングサービスにお気軽にご相談ください。