- コラム
- スタッフコラム
2024.09.19
猫のアレルギーガイド:獣医師が教える基礎知識から対策まで
猫が頻繁にくしゃみをしていたり、かゆそうにしている様子を頻繁に見かけると、「もしかしてアレルギー?」と不安になってしまう方も多いと思います。
でも、それって本当に猫の食物アレルギーの症状なのでしょうか?気になる症状は食物アレルギー以外のことが原因になっているかもしれません。
今回は、tamaの獣医師が改めて猫によくみられるアレルギーについてご紹介します。誤解されやすい症状、そしてアレルギーがあると診断されたときの効果的な対策についてご紹介します。
猫との暮らしを快適に、健康的なものにするために、ぜひご覧ください。
-
tamaの獣医さん 菱沼獣医師
獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。大型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです。
猫のアレルギーの基礎知識
「アレルギー」と一言で言っても、その種類はさまざまです。
まず、猫の食物アレルギーが起こる仕組みは、人間のアレルギー反応とほとんど同じです。簡単に言うと、何らかの形で体内に取り込まれた特定のタンパク質を免疫が敵とみなして攻撃をしてしまうことで、炎症が起こり、体調の変化が起こります。この炎症が起こっている状態をアレルギー症状が出ていると表現します。
免疫細胞自体は、体を守るために必要な存在で、病原菌やウイルスなどの異物が体内に入ってしまった時に戦ってくれるものです。
ところが、アレルギー反応が起こっている時は、本来は攻撃するべき病原菌やウイルスではないタンパク質を免疫細胞が攻撃している状態です。この異物への攻撃反応のひとつとして、炎症があり、炎症によってかゆみや軟便などが引き起こされているのです。
免疫細胞が攻撃対象ではないタンパク質に反応してしまうことが原因で起こるアレルギーですが、そもそもなぜ免疫細胞が特定のタンパク質に反応するようになってしまうのか、気になりますよね。
でも残念ながら猫でも、人間でもアレルギーを発症してしまうきっかけや原因は、現時点では、はっきりとは分かっていません。
猫の食物アレルギーについて
さて、猫のアレルギーでよく話題に挙がるのが「食物アレルギー」です。その名の通り、食べ物に含まれるタンパク質にアレルギー反応が出るようになるのが食物アレルギーです。
ちょっと意外に思われる方が多いかもしれませんが、猫の食物アレルギーでは、人間のような激しいアレルギー反応がみられることはほとんどありません。
その代わり、なかなか改善されないかゆみや脱毛、軟便などの形でみられることが多いようです。
それから、人間のアレルギーとは違い、複数の食材を組み合わせて作るキャットフードを主食としている猫の場合、アレルギーの元となる食材を特定することはとても難しく、非常に根気のいる作業になります。
そういった猫のアレルギーの特徴を踏まえたうえで、食物アレルギーによって引き起こされる症状としては以下のものがあります。
・なかなか収まらないかゆみ
・脱毛
・下痢、軟便など消化器系トラブル
猫がかゆがっていたり、同じような場所を繰り返し舐めるなどの行動を見せると、アレルギーを疑ってしまう方は多いと思います。
そして、直前に食べたものをアレルギーに結びつけてしまいやすいのですが、猫の食物アレルギーで現れる症状はアレルギー以外でも起こるもので、パッと見ただけでは原因を食物アレルギーだと判断することは難しいです。
猫のかゆみや脱毛などの皮膚のトラブル、下痢や軟便などの消化器系のトラブルが見られたら、まずは動物病院で相談をして、適切な方法で原因を探ってから、食事や生活を改善していくことをオススメします。
■ くしゃみや涙もアレルギーの症状?
人間のアレルギーでは、涙や鼻水が止まらなくなったり、くしゃみが出たりする花粉症のような症状もアレルギー反応としてよく知られていますよね。
猫たちも同じようにアレルギーの症状として涙が止まらなくなったり、鼻水が出たりすることはあるのでしょうか?
結論から言うと、皮膚のかゆみや脱毛、軟便と比較するその事例は圧倒的に少ないです。ましてや、食物に含まれるタンパク質が原因でそういった症状が出ることはほとんどないといえます。
とはいえ、可能性はゼロではありませんし、別の原因も考えられますので、涙や鼻水が改善されない場合は速やかに動物病院を診断するようにしてくださいね。
食物アレルギーがあることが分かったら、どんなことができるの?
まず、食物が原因でアレルギーの症状が出ていることが分かったら、アレルギーの原因となっているタンパク質(アレルゲン)をある程度絞り込む必要があります。
アレルギーの原因となっている食品を特定する方法として「血液検査」「食物除去試験」があります。
■猫のアレルギーと血液検査
食物アレルギーかどうかを判断するときに、猫の血液検査を行うことがあります。もしかすると、「血液検査をすれば猫が食物アレルギーかどうかが分かる」「血液検査をして引っかかった項目はアレルギーの原因になるから絶対に与えてはいけない」と思っている方もいるかもしれませんが、そうではありません。
アレルギーに関連して行う猫の血液検査は「アレルギー反応を引き起こす可能性があるタンパク質を絞り込む」ために行われています。
猫が食物アレルギーを起こしているのか、どの食べ物がアレルギーを引き起こしている原因なのか、といったことを確定させるには少し情報が足らない、ということです。
確定させるには、少し情報が足らないというのは、血液検査の結果の中には「偽陽性」と呼ばれる、アレルギー反応が起きていないのに陽性と出てしまうケースが関係しています。
健康的な猫であっても、以前食べたことがあるタンパク質や、日常的に食べたり、触れたりしているタンパク質に抗体が作られることがあります。このケースの場合、猫の体にアレルギー反応が起きていないのであれば、今まで通りにその食品を食べさせることも検討できます。
■食物アレルギーを引き起こす、原因を調べる「食物除去試験」
食物除去試験とは、血液検査でアレルゲンとなる可能性がある食品をある程度絞り込んだあと、実際に猫のアレルゲンとなっている食品を特定するために必要な検査方法です。
血液検査の項目リストの中から特に疑わしいものを取り除いた食事を一定期間(4~8週間)与えて、アレルギー反応が見られないことを確認します。
その後、特定の原材料を順番に1週間程度与えて、アレルギーの反応が再びみられるかどうかをチェックしていきます。特定の食べ物でアレルギーの反応が再発したら、その食品がアレルギーを引き起こしている、ということになります。
この時、オヤツなどでもアレルゲンとなる可能性がある食品を与えないよう、注意する必要があり、指定された以外の食品を一切与えることができないので、猫も家族もかなりの根気がいる作業となります。
きちんと決められたとおりの手順を踏めば、アレルギーの原因となる食品を特定することができますので、深刻なアレルギー症状がみられる時には必須の手順となります。
食物アレルギーがある猫の食事管理
食物アレルギーの疑いがある猫のための食事を探す時、猫が今までに食べたことがないタンパク質を使用している、珍しい原材料(希少タンパク)を使用しているかどうかを判断基準としてフードを意識するのがオススメです。
キャットフードでたびたび見かける希少タンパクとして、カンガルー肉やダックなどを使用しているフードがあります。
それから、使用する食材を限定しているLID(原材料限定食)もオススメです。
アレルゲンになりうるのはタンパク質のみというアレルギーの特性を逆手に取り、原材料の種類を限りなく減らしてシンプルなレシピのキャットフードを与えることで、食べられるタンパク質を特定できるように作られています。
もちろん、アレルギーのある猫のために作られた療法食もオススメです。アレルギー対応の療法食は、タンパク質に反応するアレルギーの特性を活かし、タンパク質をさらに細かいペプチドやアミノ酸まで分解することでアレルギー反応を起こしにくくしているものがあります。
こういったキャットフードを与えて、問題なく食べられる食材を探していけば、食物アレルギーがある猫でも好みのキャットフードを見つけられるかもしれません。
おわりに
猫も人間同様にアレルギー、その原因や症状もさまざまです。
猫のアレルギーは、皮膚や消化器のトラブルとして現れることが多く、見ただけではそもそも食物アレルギーと判断するのが難しかったり、どんな食材が原因となっているか判断が難しい場合があります。確定診断には、血液検査や食物除去試験が有効です。
血液検査はアレルゲンの可能性を絞り込むためのものであり、最終的な特定には食物除去試験が必要です。
アレルギーの原因となっているものがある程度わかれば、希少タンパク質を使用したフードや原材料を限定したキャットフード、療法食などで食事管理を行うことができます。
猫の健康を守るために、獣医師と相談しながら適切な対策をしていきたいですね。