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2024.03.07
正しく知りたい、猫の腎臓病。「尿比重とは何か」【獣医師コラム】
多くの猫を悩ませている慢性腎臓病。
それだけに猫の慢性腎臓病のサインを見逃さないように、定期的な健康診断を受けさせているという方もいるかもしれません。
猫の健康状態を知るために行うさまざまな検査項目がありますが、その中でも「尿比重」は猫の慢性腎臓病の状態と関係する重要な指標の一つです。
しかし、尿比重と一言で言っても、この検査とはいったいどんなもので、どのようなこと知るために行われているのでしょうか?
今回は、猫の腎臓病について調べていると時々出て来る「尿比重」という検査の役割、正常値の範囲、どのような時に変化が見られるかなど、簡単にご紹介いたします。
猫の腎臓病と関係する?尿比重とは?
まず、「尿比重」という言葉を実際に聞いたことがあるという方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
尿比重とは、尿検査のなかでオシッコに含まれるナトリウム、尿素、糖、タンパク質などの成分が含まれる量を示す指標のことを言います。
何だかわかりにくいので、簡単に言うと「オシッコの濃さ」「オシッコの重さ」の指標だと思ってください。
オシッコの水分とそれ以外の固形成分の比率を調べていますので、水に対してどれくらいの重さがあるのかを示しています。
尿比重検査は、比重計と呼ばれる計測器で測定します。
オシッコの水分にはさまざまな成分が含まれた状態で排出されます。健康的な猫のオシッコであれば、尿比重の数字は1.035~1.050になります。
■ 猫の尿比重の基準
健康的な猫の尿比重は、以下の範囲内を基準としています。
1.035~1.050
尿比重の値が1.035よりも低い場合、猫の尿に何かしらの異常が起きている可能性が疑われます。尿比重の値が低くなる原因の一つとして、慢性腎臓病に代表されるような腎臓の機能の低下が考えられるので、猫の腎臓病の状態を知るうえで尿比重は重要なチェック項目の一つになっているのです。
猫の尿検査、尿比重から分かること
腎臓と尿比重の関係をもう少し詳しくご紹介します。
腎臓は、体内の余分な水分や老廃物を排泄するために尿を生成するというのが主な役割の臓器です。
腎臓は血液中に含まれる成分の中から、再利用できるものと排出するべきものを選択し、再吸収したり、オシッコとして排泄する成分の量や種類を調節したりしています。
健康的な腎臓では、ある程度オシッコを濃くすることで体外へ排出される水分量を調節する働きをしています。オシッコが濃くなれば濃くなるほど結果的に尿比重も高くなります。
水分が乏しい砂漠地帯で暮らしてきた祖先からの遺伝なのか、猫はほかの動物と比較しても顕著に尿を濃縮する傾向があるようです。
さて、腎臓の機能が低下するとどうなるのでしょうか?
まずは、腎臓が持っている血液の成分をろ過する機能が落ち、オシッコを濃縮する能力も低下していくことになります。
当然、外に排出されるはずのオシッコの濃度が低くなり、薄い尿がたくさん出るようになります。
本来であればオシッコとして排出されるべき成分が血液の中に残り続けてしまい、さまざまな影響が出るようになります。
慢性腎臓病と診断されるに至るには、尿比重以外にもいくつかの検査を行う必要があるのですが、比較的早い段階で変化が見られる尿比重は腎臓の状態の変化を知る手掛かりとして重視されているのです。
猫の尿比重が変化する要因
ここまで、猫に多い慢性腎臓病を軸に尿比重との関係をご紹介してきましたが、尿比重が変化する原因は慢性腎臓病だけとは限りません。(ですので、猫の腎臓病かどうかの判断は、血液検査やその他の検査を合わせて慎重に行う必要があります)
「猫の尿比重の数値が悪い、気になる」と動物病院の定期健診などで言われて「腎臓病になってしまった」とショックを受る方も多いですが、尿比重はさまざまな理由で一時的に変化することがあります。
代表的な尿比重を変化させる可能性がある原因には以下のようなものがあります。
■ 慢性腎臓病以外の尿比重に影響する要素
【尿比重が低すぎる】
・糖尿病
・クッシング症候群などの内分泌系のトラブル
【尿比重が高すぎる】
・尿の中に不純物がある(結晶、結石、雑菌など)
・飲水量が極端に少なく、脱水状態
尿比重の数値に変化がある場合、多くの動物病院ではほかの検査項目も踏まえたうえで経過観察をしていくことになると思います。緊急性がある場合はすぐに治療に入るケースもあるようですが、尿比重だけで「腎臓病」と断定することはできません。
気になることがある場合は、すぐに動物病院で相談するようにしてください。
おわりに
今回は猫の健康維持において重要な指標の一つである「尿比重」についてご紹介いたしました。
あくまで尿比重は猫の尿検査の項目の一つであり、腎臓の尿を濃縮する機能がどれくらい働いているかを推測する助けになる指標です。とはいえ、尿比重の数値が低下しているだけでは猫の腎臓病を断定することはできませんので、血液検査やほかの尿検査項目、その他のチェック項目と合わせて総合的な判断が必要となってきます。
定期的な健康診断などを受けているようであれば、尿比重の変化なども見ていくと色々なことが分かるかもしれませんので、気になることがあるようであればぜひ獣医さんに質問してみてくださいね。
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tamaの獣医さん 菱沼獣医師
獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです。