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2023.07.20
夏の食欲不振に要注意!猫の水分補給と栄養サポートが大切な理由[#獣医師コラム]
暑くなってくると「猫がいつものごはんを食べてくれない」というお悩みが多くなってきます。
暑さのせい、仕方がない、と思われる方が多いと思いますが、それが長く続くようであれば要注意。ただの食欲不振と甘く見ることができないケースもあるのです。
今回は、暑い夏の猫の食欲不振に注が必要な理由について、獣医師による解説をご紹介します。
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tamaの獣医さん 菱沼獣医師
獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです。
夏の食欲不振に要注意!
猫の食事への食いつきが悪かったり、まったく口を付けない、ということ自体はよくあることです。
特殊なものを除いて、ほとんどの病気の症状として食欲不振は起こります。それだけではなく、病気ではないけれど「食べない」ということも多いのが猫という生き物です。
とはいえ、やっぱり「食べない」というのは良くありませんので、どんな食欲不振に注意するべきなのか、そしてどれくらいの期間、食べないなら注意するべきなのか、といったことをご紹介していければと思います。
■猫の食欲はさまざまな理由で低下します
猫の食欲不振はさまざまな原因で引き起こされます。
何かに怖がっていたり、怯えていたりするようであれば、緊張状態から食事を食べることができないということが起こります。
それから、環境の変化にも敏感に反応し、食欲が落ちるケースも。引っ越しをした、家族が旅行にいっている、家族が増えた(猫、犬、人間の子どもなど)といった変化は、猫にとってストレスになります。
それから、猫と暮らす方の多くが直面する問題のひとつが、「飽きた」「別のものが食べたい」という、猫の要求です。
いつもと違うものを食べたがったり、逆に新しい食事は拒否したり…猫らしい「気まぐれ」の可能性もあります。
その他にも、オヤツをたくさん食べ過ぎて、主食を出されてもおなかが空いていないから、食べないなんてケースもあるかもしれません。
ドライフードであれば、古くなっていたり、酸化が進んでいるものは食べなくなることが多いほか、ウェットフードでは冷たすぎたりしても食いつきが悪くなるということもあります。
■食べない以外の症状はありますか?
食べない、以外にも何か気になる症状があるようであれば、病気の可能性も考えられます。
猫の食欲不振はさまざまな病気の症状として見られます。
一部の例としては、消化器系のトラブルや感染症、腎臓や免疫系のトラブルのほか、外傷(ケガ)の痛みがストレスになり、食事を食べなくなるということもあります。
食べなくなってしまった以外の症状にどんなものがあるのか、は動物病院での診察でも非常に重要なチェックポイントになりますから、気になることがあれば書き留めておくようにしてください。
例)体が熱くなっている(発熱)、下痢(便秘)、嘔吐、血尿、ふらつく、呼吸の異常など
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スタッフ猫の場合は、食欲不振に加えて普段は喜んでする行動や遊び、食事などに対する反応の鈍さがきっかけとなって病気に気が付いたというケースもありました。
いつもなら喜んで飛びつくオモチャに反応しなかったり、大好きなウェットフードを食べ進めなかったり…。抱っこした時のリアクションなども異変のサインになっているかもしれません。
■どれくらい食べていない状態ですか?
猫が食事を『一切』食べていない状態が一定時間以上続いていたり、ほかの症状も出ているようであれば、すみやかに動物病院へ。
以下は猫が食事を一切摂取しない時の観察の時間の目安ですが、この時間が過ぎる前に動物病院で相談するようにしてください。猫の普段の様子やその時の体調によっては、より重篤な可能性があります。
持病がある子の場合や高齢猫であれば、観察の時間はもう少し短くしても良いかもしれません。
【猫の食欲不振の時間の目安】
年齢(月齢) :食べていない時間
1-2カ月: 8時間
2-3カ月: 12時間
3-4カ月 :16時間
1歳以上 :24時間
食事だけではなく、水分も一切摂取していないという状態であれば、より時間は短くなります。水分も摂取しない状態であれば、上記の時間の半分くらいを目安としても良いと思います。
※オヤツであれば食べる、好物なら食べるという場合は様子見をオススメします。ただし、食欲不振(低下)が72時間以上続くようであれば、病院で相談してください。
猫の水分補給と栄養サポートが大切な理由
■猫が水分を長時間摂取しないとどうなるの?
猫の体は60~80%を水分が占めるので、長時間水分を摂取しない状態が続くことで、尿が濃くなり、膀胱炎や結石など尿路系の病気になりやすくなるほか、脱水状態は腎臓にも大きな負担となります。
また、からだが脱水することで、よりだるさを感じた猫は水を飲まなくあることがあります。「喉が渇いていないのだろう」と放置するのは危険です。
とくに高齢の猫は腎臓の機能が低下するので、脱水状態になり腎臓への負担が大きくなることはなるべく避けたいところです。
■ 猫は暑いと水を多く飲むようになるの?
人間では暑いと水分補給を意識しますが、それは人間が汗で体温調整を行う生き物だからです。汗をかくことで体表に水分を発生させ、蒸発する際に温度を下げる働きによって体温を下げています。
犬の場合は、舌を出して大きく呼吸する「パンティング」で口の中の水分を気化させて同じように温度を下げています。
そのため、人間や犬は体温を下げるために冬よりも多くの水分を摂取する必要があります。
ところが猫は、人間や犬のように水分を蒸発させて体温を下げるという機能を持っておらず、体温調整を耳で行うとされています。耳を通る血管から放熱することで体温を下げているので、人間のようにたくさんの水分を必要とはしていません。(猫も肉球から汗をかきますが、体温調節のために人間のように大量の汗をかくということはありません)
これはもともと猫が砂漠などの乾燥地帯で生きてきた動物だったことに由来しているようです。少しの水分も無駄にはできない環境だったため、水を必要としない体温調節の方法を身につけたのでしょう。
そのため、猫は暑いからといって水分を多く飲むようになるということはなく、注意が必要です。
■肥満の猫は「肝リピドーシス(脂肪肝)」に要注意!
猫の食欲が低下し、食べる量が減っている状態が一定時間以上続くようであれば、栄養不足になることが考えられます。子猫であれば命にかかわる低血糖症になってしまうリスクがあるので注意が必要です。場合によっては強制給餌などが必要になる可能性もあります。
注意が必要なのが肥満傾向にある猫の食欲低下です。実は、肥満状態の猫が36時間以上一切食事を食べないと、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝(肝リピドーシス)という病気が起こります。この病気は一気に症状が進む特徴があり、肝臓機能の低下が進行すると痙攣や意識障害などの神経障害が起こる可能性があります。肥満傾向の猫に食欲の変化が見られたら、なるべく早めに動物病院で相談してみてくださいね。
猫の夏の食欲不振のサポート方法
猫の食欲不振が見られた時には、水分を摂取できているかも合わせてチェックしてください。
まず食べさせることを意識して猫の大好物やオヤツを与えようとする方が多いのですが、一緒に水分補給もできるように、水分量が多いウェットフードを与えてみるというのもオススメです。
この時、可能であれば総合栄養食の基準を満たしているものであれば、猫が必要とする栄養をバランスよく取り入れることができますので、役立ちます。
ウェットフードはドライフードと比較して水分量が多いだけではなく、香りが強いものが多いので猫が興味を持ちやすい傾向にあります。
おわりに
今回は、夏に猫が食欲不振になってしまった時に注意が必要なポイントについてまとめてご紹介いたしました。
やはり猫は猫。人間の感覚や常識とは異なる部分がありますので、正しい知識を付けておくことが大切です。肝リピドーシスや腎臓病などは、猫の命に影響することも少なくありませんから、たかが食欲不振と侮ることができません。
いざ、という時のために総合栄養食の基準を満たしたウェットフードなどを用意しておくことも備えになるかもしれません。