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2023.06.01
室内飼育の猫も気を付けよう。マダニの取り方、つきやすい場所などまとめました。
暑くなってくると活動的になってくる厄介者がいます。それは、ノミやダニといった害虫たち。
室内で暮らすことが多くなった猫は、以前と比べるとこれらの害虫の被害にあうことはかなり減ったといわれています。
でも、完全室内飼いの猫たちであっても正しく知り、対策していってほしいのが「マダニ」の存在。
名前は聞いたことがある、という方がほとんどだと思いますが、マダニに関する基礎情報をまとめてみました。
そもそも、マダニって?
猫と暮らす方の中には、名前を聞いたことがある方もいる「マダニ」。
実は、昆虫ではなく、クモやサソリと近い仲間だってご存じでしょうか?
猫などの哺乳類の体に寄生したり、家の中に潜むダニ(イエダニやヒゼンダニなど)との最大の違いは、固い外皮を持っていて、吸血することで非常に大きく膨張することができることにあります。
マダニの仲間は数倍~数100倍まで体を膨張させることができ、栄養豊富な血液などを吸い取ります。
マダニの仲間がなぜ猫など哺乳類の血液を吸うのかというと、マダニの唯一の栄養源が血液だから。
若いマダニは発育・脱皮のため、成長したマダニは産卵のために吸血します。
厄介なことに、マダニの仲間は一度吸血すると容易に離れないように、セメントのような物質を分泌して猫の皮膚などに強固にくっついてしまいます。元の体重の約100倍になるまで血を吸わなければ離れてくれません。
一度に大量にマダニに寄生された場合、感染症にかかってしまったり、体力がない子猫や老猫では貧血を起こすともあります。
猫にマダニが付いている…どこから来たの?
猫にマダニが付いてしまう経路としては、大きく分けて2つが考えられます。
・元野良猫、保護猫などで、前から寄生されていた
屋外で暮らしていた経験を持つ猫は、やはりマダニが付いてしまっているリスクが高くなります。
マダニは以前は緑豊かな山や林などが主な生息域とされ、都市部ではあまりみられることがなかったのですが、近年では生息域を広げつつあるといわれています。
マダニは少しでも樹木や草が生えているところなら、民家の裏山や裏庭、畑、あぜ道のほか、公園や河川敷であっても生息している可能性があるといわれます。
こういった場所で暮らしてきた経験がある元野良猫、保護猫の場合は、寄生されている可能性がありますので、先住猫がいる家庭では迎え入れてすぐに対面させることは避けた方が安全です。
・家庭の中にマダニが持ち込まれた
もうひとつの可能性としては、家庭の中にマダニが持ち込まれている、というケース。実はマダニは人間にも簡単に寄生します。山や林などのアウトドアレジャーに行ったとき、靴下や衣服、靴などにくっついて家の中に持ち込まれてしまうこともあります。
アウトドアでなくても、ちょっとした河川敷の草むらや公園にある茂みにもマダニは息をひそめているかも。
猫たちが完全室内飼育であったとしても、家族がマダニを持ち込んでしまうことで寄生されてしまうという可能性があるのです。
猫にマダニが付いていないかチェックするべきポイント
猫にマダニが付いていないか心配になってしまった、という方も多いのでは。それでは、猫の体でマダニが特につきやすい部位をご紹介します。
・耳の中、周辺
・目元
・あごの下
・首回り
・四肢の先(指の間)
猫は全身がくまなく豊かな被毛に覆われているため、体にはあまりマダニが付くことはないようです。
その代わり、毛が薄く、皮膚が柔らかい顔の周りや足の指の間には非常にマダニが寄生しやすい傾向にあるので注意が必要です。
マダニが付いていないかチェックするなら、顔周りを中心に耳の中やあごの下といった部分を重点的に確認してみてください。
猫のマダニの取り方は「獣医さん」に任せるべし。
猫の体に実際マダニが付いている、と分かったとしても家庭で取り除くのはオススメできません。マダニを取り除くなら、必ず動物病院で処置してもらうようにしましょう。
なぜなら、吸血している状態のマダニはさまざまな病原菌やウイルスのキャリア(運び主)となっていて、無理な方法で取り除こうとするとそれらを含む血液が逆流し、猫の体に流れ込むことで病気やトラブルになることがあるから。
また、適切に処置できないとセメントのような物質で固定されてしまったマダニの頭部などが猫の皮膚に取り残され、炎症などの原因になることもあります。
動物病院では、これらのリスクを考慮しながら薬とマダニ除去専用のピンセットを活用しながら除去を行っていきます。
家庭でマダニの除去ができる、といううたい文句で販売されているピンセットや民間療法的なものが紹介されているサイトもあるようですが、猫の体への影響を考えると、やはり専門家である獣医師にお願いしたほうが安心です。
猫にマダニ用駆虫薬は必要?
これらのことを踏まえて、猫にマダニ対策としての駆虫薬は必要なのでしょうか?
完全室内飼育であったとしても予防としての駆虫薬は使った方が安全、ということになります。
ここまでご紹介した通り、猫が外に出ることがなくても、マダニが寄生してしまう可能性を完全にゼロにすることは難しいです。
このことを考えると以下の条件に合うご家庭では、猫にマダニ用駆虫薬を使うことも考えてみてください。
・猫が庭などを出入りすることがある
・新しく猫をお迎えしたばかり
・家族がアウトドアに良く出かける
・同居する犬がいる
・ペットショップやトリミングサロンなど、ペットに関連する場所に出入りする家族がいる
もちろん、地域によってマダニの生息状況が異なると思いますので、かかりつけの獣医師さんと相談したうえで使うかどうかの判断をしてもらうと安心です。
それから、よく「ノミ取り首輪」なるものも販売されていますが、その効能や安全性については明確なエビデンスがないものも多くあるようです。
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tamaの獣医さん 菱沼獣医師
近年、野生動物の生息範囲の拡大や、キャンプなどのアウトドア人気を受けて、マダニの被害にあうリスクは増加傾向にあります。完全室内飼育の場合でも、マダニに寄生される可能性がありますので、マダニに対する知識は頭に入れておくことをオススメします。
マダニが媒介する人間の感染症について
最後に、マダニは私たち家族の感染症の原因になる可能性もあります。
★マダニが媒介する代表的な人間の感染症
・日本紅斑熱
…高熱、発疹、刺し口(ダニに刺された部分は赤く腫れ、中心部がかさぶたになる)が特徴的な症状です。紅斑は高熱とともに四肢や体幹部に拡がっていきます。
・ライム病
…刺されてから、1~3週間後に刺された部分を中心に特徴的な遊走性の紅斑がみられます。また、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザに似た症状を伴うこともあります。
・ダニ麻痺症
…マダニの唾液中に分泌される神経毒により、食欲不振、筋力低下、運動障害、眼振、脱力、麻痺などが症状としてみられます。
・重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
…2011年に初めて特定された「SFTSウイルス」に感染することにより引き起こされる病気で、主な症状は発熱と消化器症状で、重症化し、死亡する事例も報道されています。
・バベシア症
…マダニが保有するバベシア属原虫が犬の赤血球に寄生することにより生じる溶血性貧血が原因となり、いろいろな症状が引き起こされ、治療が遅れると死に至るケースもあります。
少し前に、マダニが原因で感染症にかかってしまった方がニュースにもなっています。これらの病気は重症化するリスクもありますので、注意が必要です。
おわりに
今回は厄介な寄生虫、マダニについてご紹介しました。
マダニというと散歩に行く犬が予防するもの、というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。でも、実際は完全室内飼育の猫であってもある程度のリスクがあるのが現実です。
もっともマダニの活動が活発になるのは初夏~夏の間ですので、その期間だけでも、マダニ対策を行うのは意味があることだと思います。
信頼できる獣医師さんと、地域の流行状況などを踏まえてじっくり話し合ってみても良いかもしれませんね。