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2022.08.25
猫にマイクロチップは必須?デメリットはないの?獣医さんに聞いてみました
2022年6月以降、猫への装着が義務化されたマイクロチップ。この話題について興味を持っている方も多いと思います。
皆様の家の猫はマイクロチップの装着を行っていますか?
どんな猫が義務の対象となっているのか、対象ではない猫はいるのか、といった問題のほか、マイクロチップの装着が猫の体調にどのような影響を与えるのかについてもまとめてみましたので、ぜひご覧ください。
猫に装着するマイクロチップとは?
マイクロチップとは、名前の通り、とても小さな筒状の物体で、ICチップが内臓されています。直径2mm、長さ12mm程度の円筒形で、体内に入れても毒性や発癌(がん)性がなく、生体親和性に優れ、体内で長期にわたって劣化しないことが証明された「生体適応ガラス」を使用しています。この生体適応ガラスは、医療用として人間の体にも使用されるものです。
このICチップを動物の身体に挿入することで、猫一頭一頭の個体識別を行えるようにすることがマイクロチップ挿入の主な目的になります。
マイクロチップの装着の対象となる猫
2022年の制度化後はすべての猫にマイクロチップを装着させなくてはいけないのでしょうか?答えは、NOです。一部の猫を除いて、マイクロチップの装着は義務ではない猫もいますので、順にご紹介していきます。
■新しく家にお迎えする猫はどうするべき?
2022年6月1日以降に、ブリーダーやペットショップから家庭に迎え入れる猫にマイクロチップの挿入が義務化されました。
猫は4週齢からマイクロチップの装着ができ、ブリーダーやペットショップでは譲渡の日まで、あるいは生後90日までに装着が義務付けられました。そのため、2022年6月以降は必ずマイクロチップが入った状態の猫が販売されることになります。
家族は家に迎え入れてから30日以内に情報を登録することが必須です。
一方、保護団体などから迎え入れた保護猫や、野良猫の場合はマイクロチップの装着は必須ではありませんが、迎え入れた後に装着するように努めることが推奨(努力義務)されています。
■すでに猫と暮らしている家族はどうすればいいの?
2022年6月1日時点で、すでに猫と暮らしている方に対しては、努力義務のため、強制ではありません。
すでに一緒に暮らしている子に対しては、「うちの子にとって必要かどうか」をじっくりと家族で話し合い決定していくのが良いと思います。
マイクロチップが装着されている猫が必要な手続きについて
2022年6月1日以降に、ブリーダーやペットショップなどから猫を迎え入れた方、あるいは、すでにマイクロチップを挿入されている猫と暮らしている方は、環境省への情報の登録が必要になります。
新しく猫を迎え入れた方や、動物病院などで新しく猫にマイクロチップを入れる処置を終えると、「登録証明書」が渡されますので、そちらを元に申請手続きを進めていきます。
申請は、指定登録機関である公益社団法人日本獣医師会を通して行い、オンライン又は郵送にて申請することができます。
登録される情報は、15桁の識別番号、所有者情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス など)、動物情報(名前、品種、毛色、生年月日、性別、狂犬病予防法登録番号 など)になります。
過去にマイクロチップを入れたけれど登録をしていない、登録に関連する書類を紛失してしまったら
2022年6月以前にマイクロチップを挿入している猫の情報を新しく登録することも可能です。マイクロチップに情報を登録するための書類がそろってさえいれば、環境省の特設ウェブサイトからいつでも登録することが可能です。
猫のマイクロチップの登録に関連する書類を紛失してしまった場合には、かかりつけの動物病院で相談することで、猫に入っているマイクロチップ情報を読み取り、「マイクロチップ識別証明書」という書類を発行してもらえます。
この書類をもとに、改めて情報登録を行うことも可能です。詳細は動物病院で案内を受けることができるほか、環境省の専門相談窓口でも問い合わせが可能です。
マイクロチップの装着が義務化された背景
マイクロチップを挿入することによるメリットは以下のものが挙げられます。
- 猫が迷子になったときに家族を見つけやすくなる
- 猫の身元を判定しやすくなる
- 猫の置き去り、遺棄、不用意な繁殖の抑制につながる
マイクロチップの必要性について特に議論が白熱したのは災害の時で、大きな地震などがあり、猫や犬が予期せず家から逃げ出してしまった時など、身元判定する術がないという問題がありました。
また、猫と暮らし始めたはいいものの、途中で問題が起きて捨ててしまったり、不用意に増えてしまい、ご近所トラブルにつながるというケースが、悲しいですが一定数起こっていました。
猫の情報を家族と結びつけることにより、こういった置き去りや遺棄、不用意な繁殖などの抑止にもつながるのではないか、と期待されています。
犬や猫の安全を守り、不幸な子を増やさないための取り組みともいわれています。
マイクロチップを装着させることにデメリットはないの?
多くの方が気になっていると思いますが、マイクロチップを挿入することにデメリットはないのでしょうか?
猫の体の中に電子部品のようなものを入れて、体調を崩してしまったり、痛みを引き起こすようなことはないのでしょうか?
獣医師視点で、マイクロチップの挿入を解説していきます。
■マイクロチップの挿入は猫に痛みを与えないの?
マイクロチップの挿入は、専用の注射器で行います。医療行為のため、実施できるのは獣医師資格を持った者のみと定められています。
挿入箇所は首の後ろで、皮下への埋め込みとなります。一般的な注射器(血液検査や皮下注射の際に使用するもの)よりも一回り大きな注射器で、注射と同じく施術自体は数秒で終わります。皮下に埋め込むと聞くと、痛いのでは?と心配に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、猫の場合、ヒトと異なり、皮膚が良く伸びること、また皮下に脂肪が多いことから、施術の瞬間のみの疼痛で、挿入後痛みが見られることはありません。
■体の中に入ったマイクロチップは体調に影響しないの?
マイクロチップの挿入によるトラブルについてはほとんど報告されておらず、海外で、装着部位の炎症が起きたとの事例が数件確認されている程度です。
施術自体も流れは皮下注射とほぼ同じのため、獣医師によって手技が異なるなどもありませんので、これから装着を考えられている方は、かかりつけの先生にぜひ相談することから始めてみてください。避妊手術や去勢手術、予防接種のタイミングで実施をすることもあります。
猫の性格や体調、ライフスタイルによっては、マイクロチップを挿入する必要がない、という判断に至ることもあると思います。
おわりに
今回は、義務化された猫のマイクロチップ装着についてご紹介いたしました。
2022年6月以降、ブリーダーやペットショップを介して家族になった猫に関しては、マイクロチップの情報を登録することが義務となっていますが、保護猫やそれ以前から一緒に暮らしている猫に対しては「努力義務」となっています。
猫の体調やこれまでの暮らしぶりの中で、とくに必要性を感じないのであれば、猫にとって動物病院に行くことは強いストレスになりますので、無理やり装着させるというよりは、装着させない選択肢も出てくるかと思います。
マイクロチップを装着することで迷子になってしまった時、家に帰ってこられる可能性はぐっと上がります。
今後は、不幸な猫を減らしていくためにも、猫の情報と家族の情報を紐づけていく取り組みを国を挙げて続けていくそうですので、これからの動きを見守りながら判断していくというのも良いかもしれませんね。
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この記事を書いた人:獣医師 庄野舞
東京大学 農学部獣医学科卒業。
東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。
現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。
得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。