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2022.05.26

日本人のヒーロー?神様?昔話の中の可愛いくて、とってもありがたい猫のお話。

日本人のヒーロー?神様?昔話の中の可愛いくて、とってもありがたい猫のお話。

可愛くてマイペースな猫は、そばにいてくれるだけで私たちの心を癒してくれる存在。猫と人間の歴史は古く、古代エジプトに端を発してもはや数千年のお付き合いになります。
犬とはちょっと違う距離感で、人間との共生や共同生活を送ってきた猫たちですが、猫が登場する昔話や民話は犬と比べると数が少なく、あっても否定的なものが多いようです。(人を化かして騙すとか、ネズミに意地悪をして天罰が下るとか…)

でも、昔の日本人の中にも猫のことを「可愛い」「ありがたい」と感じる人もいたでしょうし、猫のおかげで命拾いをした人だって多くいたはずです。

しっかりと調べていけば、猫がメインキャラクターとして登場する昔話や民話もあるはず!と思ったスタッフが調査した、猫が登場する昔話・民話の中から今回は2本のお話をご紹介します。
昔話の中の猫の面目躍如、子供たちにもぜひ読み聞かせたい、そんな猫のお話です。

猫がイタズラでお寺に恩返し猫檀家のお話

むかしむかし。あるところに、滅多に人の訪れることもない山奥に、貧しいお寺がありました。
そのお寺には年老いた和尚さんがいたのですが、大の猫好き。人通りがほとんどない山奥というのは、猫を愛する和尚さんにはかえって好都合だったのかもしれません。誰にも邪魔されることもなく、急な仕事が入ることもなく、可愛い猫と一緒にのんびりと暮らしていました。

そんなある日のことです。和尚さんと一緒に年を取っていった猫が、突然しゃべり始めたのです。「和尚さんにお世話になったお礼をしたいんです」と。
日本ではある程度の年齢まで生きた猫は言葉を話し、変化の術を身に着けることができるという伝説があります。和尚さんと一緒にのんびりと暮らしているうちに、こっそりとこの猫も術を習得していたようです。

猫の話した内容以上に、人間の言葉を話しだした猫に和尚さんは驚愕しましたが、猫は気にせず話を続けます。

「和尚さん、私に策があります。あなたを大金持ちにして差し上げます」
「一体、どうやるんだい」
「もうすぐ村の長者の一人娘が寿命で亡くなるでしょう。そのお葬式で、私が術を使って娘の棺桶を空中に釣り上げます。それが合図です」
「ほう、それでそれで?」
「空中を飛ぶ棺桶に向かって和尚さんがお経を読んで、必死に祈っている演技をしてください。私がそれを合図に棺桶をおろします。それで全てがうまくいくはず」
「それだけで本当に大丈夫なのかねえ?」

二人が暮らすのは人里離れた山奥のお寺ですから、当然お金もなく、お堂もボロボロ。「もしも本当に猫の言うとおりにして、お金が手に入れば修理ができてありがたい…」なんてことを思いつつも、和尚さんは半信半疑です。


さて、しばらくすると猫の予言は的中して、長者の一人娘が亡くなります。
長者は立派な葬式をあげていましたが、式の途中で棺桶がフワッと空中に浮き上がりました。偉いお坊さんが数人がかりでお経を読んでも宙に浮いた棺桶は戻ることなく、それどころかガタガタと怪しい音まで立て始め、お葬式は大混乱。村人も「祟りじゃ!」とパニック状態になる中、もうワラにもすがる思いで、山奥の和尚さんが急遽呼ばれることになりました。

さて、何食わぬ顔でやってきた山寺の和尚さんが、猫から教えてもらった通り読経をしながら、必死に祈るような演技をすると……棺桶は素直にするすると下りてきました。
村人たちの目には、この山奥の和尚さんは祟りを沈めた英雄のように見えたはずです。
この一件から、山寺の和尚さんはまるで生き仏のように崇められ、山寺へは多くの参詣の人々が訪れるようになりました。
このおかげで和尚さんと猫の暮らすお寺は無事に修理され、立派なお寺となったそうです。めでたしめでたし。

補足:こんなパターンもある!猫檀家

猫が長く一緒に暮らしてきた和尚さんのためにひと肌(猫肌?)脱いで、たくさんのハッピーを届けてくれるお話です。
きっと、猫にとっても和尚さんとのんびり過ごすことができた時間は幸せなものだったのでしょう。あんなにマイペースな生き物である猫が、心の底から感謝し、周囲の人を巻き込んでまで和尚さんを幸せにしたい!と願ったのですから、よっぽど強い絆で結ばれていたのでしょう。
見方によっては和尚さんのためとはいえ悪知恵を絞る猫と、半信半疑ながらも共謀関係にある和尚さんの一世一代の大芝居で周りが巻き込まれてしまう、パニックコメディ的な要素もあるお話ですよね。

猫が恩返しをするという話は日本海側や東北地方を中心に複数残っているそうです。
今回ご紹介した話のほかにも、恩返しの理由にはいくつかパターンがあるのだとか。


・ふらりとやってきた迷い猫に食事を与えて介抱してあげた恩返し
・ずっと一緒に暮らしていた猫が猫踊りに行く際に踊りを教えてあげた恩返し

猫に踊りを教えるというのは、tamaで以前ご紹介した猫踊りの昔話との関連性が読み取れますね。
昔話などでは「恩返し」というと犬が思い浮かべられることが多いかもしれませんが、猫もきちんと恩返しをしに来るというのが猫好きとしては嬉しいところ(やり方はちょっと荒っぽいですが…)。


それから、和尚さんの評判を上げるために術を使って棺桶を持ち上げるという摩訶不思議な現象が起こっていました。この村人を驚かせる方法も、猫が術を使って棺桶を持ち上げるほかに、

・猫が妖怪に化けて村人を驚かせる
・猫が大嵐を起こす

というパターンもあるそうです。なんだか超常現象に近くなってきましたが、猫も長生きをすれば色々なことができるようになると信じられていたのでしょう。
いずれにせよ、猫を大切にして長生きさせることができれば、良いことがあるというメッセージが込められた、良い昔話だと思います。
猫が長生きをしてくれる、それだけでも嬉しいものですが、それ以上の幸せを届けてくれたら……なんて想像も膨らみます。

猫が人々の英雄に!?唐猫様の伝説

その昔、現在の長野県にあたる地域では、巨大なネズミが姿を現し、悪さをするようになりました。

このネズミはとんでもない大食漢で、畑の作物にとどまらず、家の中まで入り込んで人まで食べてしまうほど。多くの人々が犠牲になり、困り果てた村人たちはあれこれ対策を考えていました。
そんなある時、唐(現在の中国大陸)にはとても勇敢で巨大な猫、唐猫(からねこ)がいるというウワサが届きます。
ネズミ退治と言えばやっぱり猫。人間では歯が立たなくても、きっと猫なら何とかしてくれる……そんな人々の期待を一身に背負い、唐から唐猫がやってきました。

 

巨大な唐猫様 ※画像はイメージです

巨大な唐猫様 ※画像はイメージです

さて、巨大ネズミの被害にあっている地域に唐猫がやってくると、ウワサに違わぬ凛々しい顔つき、大きな体。これを見た子分ネズミたちは恐れをなして散り散りになって逃げだしました。
そんな中現れたのが例の巨大ネズミです。唐猫はさっそく勇敢に戦いを始めました。素早く逃げ回る巨大ネズミを唐猫の鋭い爪が襲います。
その戦いの激しさたるや、山をえぐり、川の流れを変えてしまうほど。まるで怪獣映画のような壮絶なバトルシーンが繰り広げられたようです。固唾をのんで激闘を見守る地域住民も気が気ではなかったでしょう。

もみ合いながら二頭は千曲川へ流れこみ、ネズミは川に流されてそのまま行方不明に。一方の唐猫は無事に下流に流れ着き、巨大ネズミに勝利を収めたのでした。
甚大な被害をもたらしたネズミを追い払えたのは唐猫様のおかげ、ということでこの地域では猫を祭って社が建てられ、尊敬されるようになったのだとか…。

補足:当時の人々の暮らしと猫が神様になった経緯

いかがだったでしょうか?
まるで怪獣映画や特撮ヒーローのような力強く、ダイナミックな唐猫様のバトルシーンに思わず手に汗握ってしまいました。思わず「唐猫様頑張れ!」と応援してしまった方も多いのではないでしょうか。唐猫様の活躍により、平和が保たれて本当に良かったです。
もしかしたら、ゴジ〇やウルトラマ〇などの大怪獣と派手にバトルを繰り広げる特撮シリーズのルーツは唐猫様の伝説にあるのかもしれません。そう思うと、なんだかワクワクしてきますね。


このお話が残っているのは、長野県の千曲川流域。山間のこの地域ではかつて養蚕に関する産業が盛んにおこなわれていました。中でもこの地域の中心だったのは、蚕の卵を管理販売する蚕種業という産業。質の良い生糸を作るために、優れた蚕の卵を産ませ販売していました。

そんな地域で、ネズミの存在は非常に厄介なものでした。家の穀物や野菜などを食べてしまうだけではなく、とても大切な蚕の卵まで食べてしまうこともあったネズミ。中にはネズミがもたらす菌などが原因で蚕がダメになってしまうこともあったようです。
この地域の人々にとってネズミを退治することはとても大きな課題だったのです。

そこで白羽の矢が立ったのが、猫たち。
ネズミを上手く捕まえて食べてくれる猫は、人々にとって神様としてあがめたくなるほど「ありがた~い」動物だったんですね。
当時の家にはネズミ退治の大切な役割を持った猫が必ずいて、毎日感謝されていたようです。猫様がいてくれるから、今年も商売ができました、と拝まれることも多かったのかもしれません。

DOG's TALK

最近では、ネズミ捕りの仕事をしている猫の数は減りつつあるといわれています。でも、ネズミのオモチャを出すと本能むき出しで戦いを繰り広げる姿は、多くの方が見たことがあるのではないでしょうか。きっと唐猫さまも同じようなファイティングスタイルだったはずです。
そんな時、英雄である勇敢な唐猫と重なって見える…かもしれません。

おわりに

今回は猫が大活躍する日本の昔話、民話をご紹介しました。なんとなく、日本の昔話では犬が活躍する話の方が有名なイメージがありましたが、ちゃんと猫が活躍する話も合って嬉しかったです。
猫だってやる時はやる!昔の日本人も猫に感謝しながら一緒に共存してきたんでしょうね。猫が神様としてまつられている神社もありますので、気になった方は聖地巡礼もしてみてはいかがでしょうか。