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2020.08.06
猫も盆踊りを楽しんでいた!?「猫おどり」の昔話
私たちの身近にいながら、不思議な行動やかわいらしい姿で人間を魅了する猫。その不思議な魅力は昔の人々にとっても同じだったようで、猫に関する昔話や伝承は各地に伝わっています。
日本では、猫は特別な力を持った動物と考えられていたようで、キツネやタヌキ以外で人間に化けることができる唯一の動物とされていました。
そんな日本に伝わる昔話の中から、お盆のこの時期にぴったりの猫の不思議で可愛い物語「猫のおどり」をご紹介します。
猫の昔話ってどんなもの?
日本に伝わっている猫に関する昔話は、猫が人間にいたずらをしたり、人間に化けて悪さをするものが多いようです。
猫が悪者にされてしまうことが多いことは、猫が好きな私たちにとっては、少々納得できないことではありますが、昔の人々にとって猫たちの生態や気ままな性格が不思議で謎に包まれていたからなのかもしれません。
猫が人間に化けるといわれていたのも、猫は人間のように2本足で立つことができたり、前足を器用に使って戸を開けることができたり、自分の目線よりもずっと高い塀などに飛び乗ることができるなど、普通の動物とは違う魔法のような高い能力を持っているからではないでしょうか。
そして何より、昔の人も猫は人間を夢中にさせる不思議な魅力を持っていることをよく知っていたから、猫は人間を誘惑するような困ったキャラクターとして描かれることが多かったのではないでしょうか。
そんな日本の昔話の中にも、猫が悪者ではなく、ちょっとクスッと笑ってしまうようなお話も、日本各地に少しずつ内容が異なる形で残っています。
猫たちが夜に行っていた、不思議な楽しいダンスのお話です。
「猫のおどり」の物語のあらすじ
むかしむかし、とあるところに黒猫と一緒に暮らす家族が住んでいました。その家族は何代も続いたお醤油屋さんだったそうで、お店には仕事を手伝う職人さんや帳簿の管理をする番頭さんなど、いろいろな人やお客さんが入れ代わり立ち代わりやってきます。そんな人々に可愛がられて、クロと名付けられた黒猫はすくすくと成長しました。
ある朝のこと、おかみさんが干していたはずの手ぬぐいを取り入れようとしたところ、1本だけがなくなっていることが分かりました。
「おかしいわねえ。たしかに干したはずなのに」その時は風に飛ばされてしまったのかと、気にも留めなかったのですが、翌日、そのまた翌日と毎日のように手ぬぐいが1本ずつなくなってしまうことが続きました。
「さすがにおかしいんじゃないか?」「手ぬぐい泥棒なんているのかね?」と店の人々は不信に思っていましたが、下働きの小僧さんが「それなら確かめてきます」と名乗り出ました。
その晩、小僧さんは手ぬぐいの干してある場所に陣取って手ぬぐいに何が起きているのかを確かめることにしました。時間は経って夜も更けていきますが、不審な様子はなく、小僧さんがウトウトとし始めたころ。
スルッ…。と物干しから手ぬぐいが滑り落ちました。「あっ」と声を出す間もなく、手ぬぐいは地を這うようにすすすすーっと草むらへと消えていきます。何が何やら分からないまま、手ぬぐいのあとを小僧さんが追いかけると町のはずれの原っぱへたどり着きました。
そこでみたものは、猫。それも1頭だけではありません。お向かいの家の白猫、呉服屋の太った猫も、かつお節を盗もうとして叱られていた猫も、大工の親分の家の双子の猫もみんないます。町中の猫という猫が大集合しているではありませんか。
「なんだこりゃ…」呆気にとられた小僧さんが木陰から眺めていると、盗まれた手ぬぐいが猫たちの中央に進んでいきました。
「はいはい、みなさん。今日もお稽古を始めましょう」猫たちの真ん中にいたのは、黒い猫。そう、小僧さんの店で暮らしているクロでした。口にくわえていた手ぬぐいを器用にきゅっとほっかむりして、猫たちにクロが呼びかけると猫たちがクロを中心に円になりました。
「それでは始めますよ。この前教えた振付は覚えていますか?」「はい、お師匠さま!」クロはどうやらお師匠さまと呼ばれているようです。
「猫じゃ猫じゃというけれど♪あ~それそれ♪」独特の節をつけてクロが歌い始めると、周囲の猫たちが二本足で立ち上がり、前足を揺らしたり、盆踊りのように愉快な歌に合わせてくるりと回ったりと踊りを始めたではありませんか。
そういえば、クロは店の娘さんが踊りのお稽古を受けているときにじっと熱心にその様子を見ていました。「クロはあれで踊りを覚えたんだな」小僧さんは息を殺して、不思議な光景に熱心に見入っていたのですが、足元にあった小枝を踏みつけてしまい、パキッと音を立ててしまいました。
その瞬間「人間だ!」猫たちはその小さな音を聞き逃すことなく、一目散に逃げて行ってしまいました。猫たちが踊っていた場所には、手ぬぐいだけが落ちています。小僧さんは手ぬぐいを握りしめて、お店に帰っていきました。
翌朝、お店の旦那さんやおかみさんに昨日あったことを一生懸命話したのですが、「寝ぼけて夢でも見たんじゃないのかい?」と取り合ってくれません。もちろん、クロに問いかけても知らん顔で毛づくろいをするばかりです。
この出来事は少しずつ町で噂になり、猫のおどりを一目見ようといろいろな人が原っぱに出向きましたが、その様子を見られた人はいなかったそうです。
でも、その後も何度か醤油屋の手ぬぐいがなくなる事件が起きたそうなので、場所を変えて今でも猫のおどりは続いているのかもしれません。
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1本の手ぬぐいがなくなる事件からスタートした不思議なお話です。猫が夜に姿を消すことが不思議に思われていたことから生まれたお話なのかもしれませんね。町中の猫たちが集まって踊りを楽しんでいる様子、なんだか想像しただけで笑顔になってしまいます。
同じようなお話は少しずつ内容の違いはありますが、日本全国に残っているそうです。
おわりに
今回は、猫の昔話の中から、不思議でかわいい猫のおどりのお話をご紹介しました。
昔は今と違い、家の中と外を自由に行き来できる猫が多かったことから、同じように夜になると家を抜け出す猫の後を追ってみた…なんてことがあったのかもしれませんね。室内で暮らす猫がほとんどの現代では、町中の猫が集まって踊りを練習する様子を見られることはないかもしれませんが、皆様の家の猫も深夜にこっそり練習をしているかもしれません。
もしも猫が一生懸命練習をしているところを見かけても、静かに見守ってあげてくださいね。