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2024.08.08
猫の肥満には脂質が関係している?正しく知りたい体重管理と健康[#猫研究所]
ぽっちゃり体型の猫は可愛らしいもの。でも、肥満体型の猫はさまざまな病気のリスクが高くなることが分かっています。
体重が重くなることで関節への負担が増加し、関節炎や椎間板ヘルニアなどの関節の病気を起こしやすくなるほか、糖尿病、膀胱炎のリスクが高くなります。
また、肥満の猫は心臓病になりやすい傾向があったり、腹腔内脂肪や皮下脂肪の影響で呼吸機能の障害、熱中症を発症しやすいというデータもあります。
なるべく避けたい猫たちの肥満。インターネット上では、ときどき「猫の肥満の原因は脂質にある」とする情報を見かけることがあります。
でも、それって本当なのでしょうか?
今回は、猫たちの肥満と脂質、そして健康維持との関係についてスタッフ猫たちが改めて調査した結果をご紹介いたします。
猫が肥満になるメカニズム
猫が肥満になるメカニズムはとってもシンプル。
消費カロリーよりも摂取カロリーが多くなるとエネルギー過多になり、肥満に繋がっていきます。
猫は野生下でもあまり活発に動き回らず、じっと獲物をロックオンして一瞬の勝負所で仕留める、というハンティングスタイルをとっています。そもそもが省エネタイプの動物なんですね。
それに加えて、自分でハンティングをしなくても家族が食事を用意してくれるような現代の暮らしぶりでは、さらにエネルギー消費量は少なくなります。
また、避妊・去勢手術をした猫は、その分エネルギーの消費量が減少します。そのため、避妊・去勢手術をしていない猫と比較すると肥満になりやすくなるほか、シニア期を迎えた猫も基礎代謝が低下するため、肥満になりやすい傾向にあります。
そんな現代っ子の猫たちに、キャットフードやオヤツなどを与えすぎてしまうことが、肥満の原因となっています。
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ゴロー
ムム…猫が肥満気味になってしまうのは、省エネなハンティングスタイルも関係しているでありますか。
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ランラン先生
そうですね、他の動物と比べるとあまり積極的に動くタイプではないから、運動量を増やして体重管理を行うのは難しいと言われたりもします。
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ゴロー
ボクちんのように、完全室内暮らしで避妊・去勢手術をしている猫さんが多くなっていることも関係していそうでありますね。
脂質は猫の肥満の原因って本当?
人間の体重管理では、「まずは脂質を減らしましょう」と指導されることは少なくありません。というのも、日本食と洋食では、料理に含まれる脂質の量は大きく異なるように、現代人の多くは過剰に摂取しているためです。
さて、猫ではどうでしょうか?
肥満状態の猫であっても、主食として食べているのは総合栄養食の基準を満たしたキャットフードであることがほとんどだと思います。
人間の食事内容の多様さと比較すると、キャットフードに含まれる脂質の量に関しては、人間の食事ほどの大きな差はないように思います。
とはいえ、脂質が多く含まれる食事とそうではない食事を同じ量食べた場合、当然脂質がより多く含まれる食事のほうが摂取エネルギーは大きくなります。そういった意味では、より脂質が低いフードの方が体重管理に適している、ということはできると思います。
ただ、肥満の原因は食事・オヤツの与えすぎであることが多いようです。低脂質のフードであっても、大量に与えてしまっては猫たちは太ってしまうからです。
猫の基本的な体重管理の方法としては、やはり食事やオヤツの量を減らすこと。摂取カロリーが消費カロリーを大きくオーバーする状況を解消することが一番になります。
中には、猫の肥満の治療を目的として栄養バランスが調節された療法食もあります。
しかし、そういった体重管理用のフードや肥満猫用の療法食を与えれば痩せる…というワケではなく、オヤツを含む食事全体の量を減らしていく取り組みが必要になります。
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ムー
ええ!?オヤツ減らすなんて酷いわ!ムーの一日の楽しみなのよ?もー!絶対オヤツをもらえるまでストーカーしてやるんだから!
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ランラン先生
まあ、急にオヤツを減らしたりすると、このようにおねだり攻撃が始まったりすることも少なくありません。オヤツの内容を低カロリーのキャットフードに変える、脂質が低いかつお節などに変更するなどの工夫が効果的です。
健康維持に役立つ脂質
脂質と一言で言っても、さまざまな種類があります。脂質を構成する主な成分は脂肪酸と呼ばれ、この脂肪酸の種類によって役割や個性が異なります。
大きな分類としては、バターやラード、動物の肉の脂身など、常温で固形になることができる脂を「飽和脂肪酸」、一方で常温で液体状になる、サラダ油やオリーブオイルなどの脂を「不飽和脂肪酸」と呼びます。
最近では、飽和脂肪酸よりもさまざまな健康維持に役立つ働きを持つ不飽和脂肪酸に注目が集まっています。
不飽和脂肪酸のうち、アラキドン酸は子猫から成猫まですべての世代の猫に必須量が、EPA、DHAは子猫期の必須栄養素としてAAFCOの総合栄養食の栄養基準で必須量が明記されています。
肉や魚に含まれる脂肪酸であるアラキドン酸が必須栄養素になっているのは猫だけです。これは猫が肉を中心に食べていれば不足することはないのですが、現代社会の猫たちは不足しやすくなっています。これも猫が純粋な肉食動物だからこそ、ですね。
総合栄養食を与えていれば不足することはまずありませんのでご安心ください。
魚の脂に含まれているEPA・DHAはオメガ3脂肪酸の一種で、猫の健康維持に非常に重要な役割を持っています。
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ナナ
ふぅん。同じ脂質でもあたちたちの健康に嬉しい脂質もあるんだ~?
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ランラン先生
ええ、特に最近はEPAやDHAといったオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸をバランスよく摂取することの重要性だけではなく、中鎖脂肪酸(MCTオイル)にも注目が集まっているんですよ。
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ナナ
ちゅ~さしぼうさんって?
■ 中鎖脂肪酸(MCTオイルとは)
MCTオイルを構成する「中鎖脂肪酸」は、その名の通り中くらいの長さなことが大きな特徴。脂肪酸に繋がる分子の繋がりが長いほど、体内で活用されるようになるまで分解のために時間や必要な工程が長くなります。中鎖脂肪酸は、分解にかかる時間や手間が少なく、速やかにエネルギーに代わる特長を持っています。
脂肪酸は小腸で吸収されたあと、一度リンパ管へと取り込まれ、そのあとに血管を通って肝臓に運ばれ、そこでエネルギーに代えられたり、体内の様々な器官で使いやすいように再合成されます。
しかし、中鎖脂肪酸は小腸で吸収された後、糖などと一緒に血管に直接取り込まれ、肝臓に運ばれていきます。
このように、消化・吸収後の経路の違いにより、一般的な油に比べ、約4倍も速く分解され、エネルギーになることが特徴です。
速やかにエネルギーに代わる特長から「緊急時の栄養補給」などの場面で活躍することが期待されています。
食事が十分にとれない療養中の猫や、体力が落ちてしまっている猫、成長期の子猫、ハイシニア猫などに非常に有効だといわれています。
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ゴロー
なるほど!脂質の中でも特にエネルギーに換わるスピードが多い特長が多い中鎖脂肪酸だからこそ、活用されることもあるのでありますね。
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ランラン先生
ええ、脂質は効率的にエネルギーになる栄養素ですから、正しく使えば体調管理にも心強い味方になってくれるんですよ。
おわりに
猫の肥満の原因と結び付けられることもある、脂質。しかし、肥満体型の猫のためのアプローチとしては、脂質の制限以外にもできる取り組みがあります。
また、脂質の中には猫の健康維持に役立てられている成分もあります。
中でも中鎖脂肪酸は、摂取後速やかにエネルギー源に変わる特長を持っているので、食欲が低下している猫のエネルギー源や病気療養中の猫の健康サポートに役立つ栄養のひとつです。
猫たちにとって必要な栄養管理とはどんなものなのか、先入観に流されることなく判断するようにしたいですね。