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2019.04.30
良質なタンパク質って?アミノ酸スコアからタンパク質を考える
「肉食獣である猫には“良質なタンパク質”を。」
よく耳にする言葉ですが、では「良質なタンパク質」って、栄養学的にどんなタンパク質を指しているかご存知ですか?
今回は、皆さまと同じように「この“良質”って、いったい何を基準に判断しているの?悪質なタンパク質が存在するの?」と、かねてから疑問に思っていたという、若手獣医師Dr.マイに、タンパク質の評価方法のひとつである「アミノ酸スコア」を元に、猫たちにはどんなタンパク質をあげたらいいのか、自分自身もどんなタンパク質を食べればいいのかを探ってもらいました。
タンパク質とアミノ酸
動物の体を構成している成分のうち、最も多いのは約70%を占めている水分です。この次に多いのが、約20%を占めるタンパク質。このタンパク質は、体の中では筋肉、骨、臓器、血液、ホルモン、皮膚、爪、髪、さらに酵素などを構成していて、体のほとんどの部位に関連している、とても大事な成分です。
タンパク質という物質は、「アミノ酸」と呼ばれる小さな物質が50個以上連結し、様々な形態をとりながら体内に存在しています。タンパク質をつくるアミノ酸は20種類存在し、この20種類のアミノ酸の結合の順番や結合の形によって、タンパク質は種類が決められています。
例えば、18種類のアミノ酸が結合すると「ケラチンタンパク質」という、髪の毛や爪を作るタンパク質になります。
タンパク質を口から摂取した場合、体の中でアミノ酸レベルまで分解され、アミノ酸として体内に吸収されます。吸収されたアミノ酸は肝臓まで運ばれ、必要な分だけ体の一部に合成されたり、エネルギー源になったりし、必要ない分は老廃物として処理されていきます。
アミノ酸の種類
タンパク質を構成するアミノ酸は、大きく「必須アミノ酸」と「非必須アミノ酸」に分類されます。必須アミノ酸とは、体内で作り出すことのできないアミノ酸のことを指し、食事などからの摂取が必要となるため、《必須》と呼ばれています。
一方、非必須アミノ酸は、体内で他の物質から作り出すことができるため、必ずしも食事に含まれていなくても問題がありません。
ヒトの必須アミノ酸は「バリン・ロイシン・イソロイシン・リジン・メチオニン・スレオニン・トリプトファン・フェニルアラニン・ヒスチジン」の9種類が該当します。猫では、この9種類に加えて「アルギニン」が必須アミノ酸となります。(タウリンも必須栄養素として知られていますが、タウリン自体はタンパク質の構成成分ではありません。タウリンってとっても不思議なんですが、このお話はまた今度。)
良質なタンパク質って?
では、どんなタンパク質が良いタンパク質と呼べるのか、今まで様々な評価方法が考えられてきました。
例えば、
・タンパク質を1g食べたら、どれだけ体重が増えるか調べる方法(タンパク効率:PER)
・タンパク質中に含まれる窒素がどれだけ体に残ったか、摂取した量と排出された量の差から調べる方法(生物価:BV)
しかし、これらの方法は、ヒトや動物で測定する必要があったため、時間と費用がかかっていました。
そんな中、1973年に国際連合食糧農業機関(FAO)と、世界健康保険機構(WHO)が提唱した評価方法が、「アミノ酸スコア」と呼ばれるものです。この方法は、その食品に含まれるアミノ酸の利用効率を評価した方法であり、この方法であれば、今まで考えてきた「PER」や「BV」ともある程度相関し、かつヒトや動物で測定しなくてもよい簡便さから、現時点で広く使用されているようです。
そして、アミノ酸スコアが高い食品=タンパク質として良質、と広く受け入れられているようです。
アミノ酸スコアの考え方
アミノ酸スコアは、その食品に含まれるタンパク質を構成するアミノ酸のバランスを元に、評価したものです。なぜ、アミノ酸のバランスに注目しているか、それは、アミノ酸が体内で利用される時の原理によります。
食事として口から体内に入ったタンパク質は、体内でアミノ酸レベルまで分解され、体を構成する成分やエネルギーとして利用されます。
この時、必須アミノ酸はそれぞれお互いのバランスを保ちながら利用されるといわれています。つまり、ヒトでは9種類の必須アミノ酸のうち、8種類がたくさんあっても1種類が少なければ、他の8種類も少ない量しか利用されない、ということなのです。
この原理は、必須アミノ酸を桶を作る一枚一枚の桶版に例え、「アミノ酸の桶理論」と呼ばれています。
一番少ないアミノ酸が最も短い桶版となり、9枚の桶版で囲った桶を作ったとき、最も短い桶版によって、その桶に入る水の量が決まってしまう、といった例えです。
アミノ酸が体内でどれだけ利用されるかは、この最も少ない必須アミノ酸によって決まります。このアミノ酸を「第一制限アミノ酸」と呼びます。
アミノ酸スコアは、この第一制限アミノ酸に着目し、該当アミノ酸が理想に対してどの程度含まれているかを数値化したものになります。
■ アミノ酸スコアの具体的な計算式
「食品タンパク質の第一制限アミノ酸含有量÷アミノ酸評定パターン該当アミノ酸含量×100」
アミノ酸評定パターンとは、タンパク質を構成する窒素1gにつき、それぞれの必須アミノ酸がどの程度含まれているのが理想か検討した基準値を差します。この値に対して、第一制限アミノ酸の量がどの程度含まれているかをこの数式で計算しています。
アミノ酸スコアは最大値を100とし、計算上100を超えた場合でも、その食品のアミノ酸スコアは100と記載されます。
それでは、トウモロコシで実際にアミノ酸スコアを計算してみましょう。
■トウモロコシのアミノ酸スコア
|
アミノ酸評定パターン※1 | トウモロコシ成分 | アミノ酸スコア | |
イソロイシン | 180 | 240 | 240÷180×100 | >100 |
ロイシン | 410 | 960 | 960÷410×100 | >100 |
リジン | 360 | 110 | 110÷360×100 | 31 |
メチオニン+シスチン | 160 | 310 | 310÷160×100 | >100 |
フェニルアラニン+チロシン | 390 | 590 | 590÷390×100 | >100 |
スレオニン | 210 | 200 | 200÷210×100 | 95 |
トリプトファン | 70 | 33 | 22÷70×100 | 47 |
バリン | 220 | 300 | 300÷220×100 | >100 |
ヒスチジン | 120 | 190 | 190÷120×100 | >100 |
*1 アミノ酸評定パターンは1985年にWHOから発表されているものを、各種植物におけるアミノ酸成分値は文部科学省の該当サイト(http://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365478.htm)にて発表されているものを使用しています。
トウモロコシの場合、最も少ないアミノ酸はリジンであることが分かり、そこからトウモロコシのアミノ酸スコアは31であることが導き出せます。
このアミノ酸スコア、評定パターンが時折更新されるため、一定ではないのですが、現在発表されている数値で計算すると、
スコア100:大豆、卵、牛乳、牛肉、豚肉、鶏肉、魚類
スコア91:プロセスチーズ
スコア65:精白米
スコア48:トマト
などが挙げられます。
このアミノ酸スコアが高いほど、必須アミノ酸が効率的に利用できる“良質”なタンパク質、と言えます。
アミノ酸スコアの注意点
アミノ酸スコアを考えるにあたって、注意点が3つあります。
注意点その1
このアミノ酸スコア、あくまで必須アミノ酸の“利用効率”を数値化したものなので、実際の含有量は考慮されていない、という点です。
例えば、牛乳はアミノ酸スコアが100のタンパク源ですが、この牛乳を水で薄めたとしても、スコアは100のまま。なのでスコアが100だからと言って、摂取方法によっては必要なタンパク質が十分とれる、という話にはなりません。
注意点その2
これは、猫で考えるときの注意点です。アミノ酸スコアは必須アミノ酸の最低量によって決まると書きました。そして、ヒトと猫では必須アミノ酸が異なります。上にも記載しましたが、ヒトでの必須アミノ酸に加え、猫では「アルギニン」と必須栄養素の「タウリン」が加わります。そのため、ヒトで算出したアミノ酸スコアが必ずしも猫では使えない、ということになります。計算することは可能なので、論文ベースでは様々な報告がでていますが、一般的にネットに書かれている数値はヒトのものなので、注意が必要です。
ただし、第一制限アミノ酸になりやすいのは「リジン」と「メチオニン」と言われていますので、アルギニンやタウリンが影響を与えることは少ないのではないかと考察します。
ペットフードに添加されているアミノ酸の種類を見ると、リジンとメチオニンが多いのは、第一制限アミノ酸になりやすいから、と考えられますね。
注意点その3
これが最も大事な点だと思うのですが、アミノ酸スコアはあくまでその食品単体の評価であるため、アミノ酸バランスが違ういろんな食品を摂取すれば、アミノ酸の利用効率は変化する、という点です。
例えば、リジンの低い白米を食べた場合、一緒にリジンが多い豆類を摂取すれば、食事全体として考えたとき、無駄になるアミノ酸は少なくなります。アミノ酸スコア上、悪質(=利用効率が悪い)、とされるタンパク質源であっても、食事の組み合わせによっては、必ずしも悪質にはなりません。
では、何をあげるか
アミノ酸スコアの低いものばかり偏って食べてしまった場合、タンパク質全体の量は十分摂取できていても、体内でうまく利用できない、ということが起こり得ます。
そして、アミノ酸スコアの考え方を知ったら、アミノ酸スコアの高い食材を体に合った量、食べる、これが最も効率の良いタンパク質の摂取方法であり、やみくもな高タンパク食は必要ないということもわかります。
また、アミノ酸を最大限、体に利用させようと思ったら、多くの食材をバランスよく食べる、これが最もいい方法であることに気づきます。
例えば、卵はアミノ酸スコアが100ではありますが、その中でも第一制限アミノ酸は存在するので、卵ばかり食べていたら、一部無駄になるアミノ酸がでてきます。少しもったいないですよね。この無駄をなくそうと思ったら、卵以外の食材も、バランスよく食べること、がおすすめできます。
そうしたら、アミノ酸のバランスは平均化され、単体しか食べていないときよりも、より体内にアミノ酸を吸収できるようになる、と言えます。
人では一日30品目、などが流行りましたが、これはたくさんの食材を食べることで、自然とバランスが保たれるから、なんですね。
これはぜひ、猫にもおすすめしたいです。普段のフードは1種類だったとしても、サイドメニューやオヤツの種類を増やしてみるとか。tamaをご愛用されている皆さまなら、サイドメニューやオヤツの楽しさも知っているはず。栄養学を勉強すればするほど、いろんなものをバランスよく、が結局は最も自然にバランスを整えることにつながるんだなあ、と思います。
今回、学んだことのまとめ
・食品単体のタンパク質に評価方法としてアミノ酸スコアがある。
・スコアが高ければ吸収効率の良い(=良質な)タンパク質と言える。
・食品の組み合わせによって、さらにアミノ酸の吸収効率を上げることは可能。
・いろんなものをバランスよく、が結局は最強である。
最近はアレルギー検査が発達してきたこともあいまって、タンパク源について注目されることが増えてきたように思います。この食材にアレルギーがある、とわかっている子は、もちろんその食材を避けるべきですが、そうでない場合は、いろんな食材を食べてみるのがおすすめです。好き嫌いも含めて色々な食材を楽しんで、試してもらいたいな、と思います。
■ 獣医師「庄野舞」経歴
東京大学 農学部獣医学科卒業。
東京大学付属動物医療センターにて、血液腫瘍科、神経内分泌科、消化器内科で従事。
たくさんのペットの生死を見てきて、共に戦った飼い主さんが最終的に願うのは「食べさせてあげたい」という思いであることに気づく。
現在は、病気予防のふだんの食事のこと~漢方、植物療法の世界の探求に励む。はじめの一歩に漢方茶マイスターを取得。
得意分野は、犬猫の血液腫瘍と回虫。
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