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2026.04.16

猫はなぜ食事をやめるのか。岩手大学の研究が示した「匂い」と判断の仕組み[#猫研究所]

猫はなぜ食事をやめるのか。岩手大学の研究が示した「匂い」と判断の仕組み[#猫研究所]

昨日まで食べていたご飯を、猫が急に食べなくなる。
tamaではこれまで、こうした行動を「好き嫌い」や「気まぐれ」ではなく、猫には猫なりの理由があることを伝えてきました。
そして今回、その考え方は「急に食べなくなる」場面だけでなく、食事の途中で口を止めたり、完食しない行動についても当てはまる可能性が、研究によって示されました。
この行動を、行動実験という形で裏づけたのが、2026年4月に発表された岩手大学の研究グループによる最新の研究です。
研究では、同じフードが続くと一度の摂食量が徐々に減る一方、フードそのものを変えなくても、匂いだけを変えることで再び食べる量が回復することが確認されました。
この結果は、猫が嗅覚を通して得られる情報を手がかりに、「いま食べるかどうか」を判断している可能性を示しています。
この記事では、この最新の研究内容を手がかりに、猫が食事をやめる行動を「飽き」ではなく、判断の仕組みとして整理していきます。

■この記事の元になっている研究論文

*1 2026年4月に発表された「岩手大学」の研究論文 ネコがごはんを残す理由を解明 ―同じ餌でも匂いを変えると再び食べる

猫は肉食動物ですが、ライオンやトラのように一度にたくさん食べるのではなく、少量を何度も食べる傾向があります。これは、野生時代に小さな獲物を一日に何度も捕らえて食べていた生活様式の名残と考えられています。そのため猫は、一回の食事ごとに「いま食べるかどうか」を判断しながら行動しています。

この習性が、人の目には分かりにくさを生みます。途中で食べるのをやめる様子を見ると、「もう飽きたのかな」「好きじゃなくなったのかもしれない」と感じてしまいがち

ですが、猫自身は好みを切り替えたわけではない場合もあります。その時点では、いったん立ち止まる必要があると判断しているだけです。

人は同じ食事であれば、満腹になるまで食べ続けることが一般的です。一方、猫にとって途中で止める行動は特別なものではなく、少量ずつ食べ、その都度感覚を確認する生活のリズムに含まれています。この違いが、猫の行動を「飽きた」と誤解しやすくする理由のひとつです。

CAT's TALK

ランラン先生

ランラン先生

人は、自分の感覚で動物の行動を説明しがちです。そこにズレが生じますね。

ゴロー

ゴロー

「飽きた」って言われると、なんか軽い感じするであります。

ムー

ムー

でも実際は、割と真剣に確認してのよ。

ランラン先生

ランラン先生

ええ。判断を放棄しているのではなく、情報を再点検している状態です。

研究成果1では、同じフードを繰り返し与えた場合と、異なるフードを順に与えた場合で、猫の摂食量がどのように変化するかが調べられました。

実験では、
・10分間食事を与える
・その後10分間、空の皿だけを置く
という操作を1サイクルとし、これを6回繰り返しています。

その結果、同じフードを続けて提示した場合、一度の摂食量は回を重ねるごとに有意に低下しました(嗅覚順応)。一方、異なる種類のフードを順に提示した場合、この低下は大きく緩和され、総摂取量は増加しました(脱順応)。

つまり、
・満腹になったから食べない
・必要量を食べきったから止めた

といった理由だけでは、猫の食行動は説明しきれないことが示されています。同じ刺激が続くことで、食べ方そのものが変わる可能性が、この段階で示唆されました。
これは、猫と一緒に暮らしている皆さまなら納得の結果ではないでしょうか。

CAT's TALK

ゴロー

ゴロー

ボクちん、毎回同じだと「もう分かってるであります」って気持ちになるであります。

ナナ

ナナ

うん。お腹がいっぱいじゃなくても、続くと一回止めたくなる。

クリ

クリ

食べられないんじゃなくて、ちょっと間を置いてる感じだよね。

ランラン先生

ランラン先生

同一の刺激が続くことで、感覚の情報量が減っていく。行動としては自然な反応です。

研究成果2では、同じフードを繰り返して摂食量が低下したあと、新しいフードを提示するとどうなるかが検証されました。
猫に同じフードを5回続けて与え、摂食量が下がった状態で、6回目だけ別のフードに切り替えています。

その結果、同じフードで摂食量が低下したあとでも新しいフードを提示すると、一度の摂食量は再び増加することが確認されました。

この回復は、多くの猫で共通して見られました。これは、おいしいかどうか、好きか嫌いか、といった評価そのものよりも「新しい刺激」が加わることで、食べる行動が引き出される可能性を示しています。「いったん下がった食欲が、刺激の変化によって再び動く」このような猫の行動が、「同じフードだと猫は飽きて食べなくなるが、新しいフードだと反応する」という印象を与える要因だと考えられます。

CAT's TALK

ムー

ムー

あ、変わった、って分かった瞬間にスイッチ入る感じ。

ゴロー

ゴロー

中身がどうこうより、「新しい」でありますな。

クリ

クリ

好きかどうかは、そのあと考えるんだと思う。

ランラン先生

ランラン先生

重要なのは嗜好ではなく、刺激が更新されたこと。その反応が摂食量に現れています。

研究成果3では、上下二層に分かれた特製の皿を使い、実際に食べるフードは変えずに、匂いだけを操作する実験が行われました。

この実験では、
・上段:猫が実際に食べるフード
・下段:匂いだけが上に届く別の区画
という構造が用いられています。

上段と下段の両方に同じフードを入れて提示すると、摂食量は次第に低下しました(嗅覚順応)。しかし、6回目だけ下段の匂いを別のフードに変えると、上段で食べる量が再び増えました。

この結果は、フード自体が別のものではなくても、匂いという感覚情報の変化だけで、食行動が変わることを示しています。猫にとって、食事の判断に占める匂いの比重が、非常に大きいことが分かります。

CAT's TALK

ナナ

ナナ

食べる前から、もう情報は始まってるの。

ゴロー

ゴロー

目の前にあるのに、空気が違うであります。

王子

王子

味に行く前に、判断はもう済んでいるのだ。

ランラン先生

ランラン先生

匂いは入口です。入口が変われば、同じ食事でも意味が変わる。

研究成果4では、食事と食事のあいだに嗅がせる匂いが、その後の摂食量にどう影響するかが調べられました。

食事の合間に、穴の開いた容器を使って、
①同じフードの匂いを嗅がせ続けた場合
②別のフードの匂いを嗅がせた場合
を比較しています。

その結果、同じ匂いを嗅がせ続けた場合は、次の食事での摂食量が低下した一方、合間に別の匂いを嗅がせた場合、その低下は抑えられました。

これは、猫の食行動が、食べる瞬間だけではなく、その前後の匂い環境も含めた、連続した体験として調節されていることを示しています。猫が少量ずつ何度も食べる行動の背景には、こうした嗅覚による細かな調整が関わっている可能性が示されました。

CAT's TALK

クリ

クリ

食べてない時間も、けっこう大事なんだね。

ムー

ムー

ずっと同じだったら、次も同じって思っちゃうわ。

ゴロー

ゴロー

間の時間も、食事を楽しむための大切な時間であります。

ランラン先生

ランラン先生

行動は点ではなく流れです。食事も例外ではありません。

岩手大学の研究から分かっているのは、猫は「同じ匂い」に慣れると一度に食べる量が下がり食べ残すことも増え、匂いに変化があると再び食べやすくなるという点です。
そのため、もっと食べてもらうために有効なのは、量や栄養をいじることより、匂いに変化をつけることです。

具体的には
・同じフードでも、できるだけこまめに出す(時間を区切る)
・フードの香りが立つ状態で出す(開けたてなど)
・匂いに小さな変化をつける

研究では、フードそのものを変えなくても匂いだけを変えることで一度の摂食量が回復するケースも確認されています。
ただし、なぜ匂いの変化が「食べる判断」に直結するのかは、まだ完全には解明されていません。現時点では「飽きたから食べない」と考えるより、感覚を確認しながら食べるかどうかを調整していると捉える方が実態に近い、と言えるところまでです。
猫が匂いや状況を確認しながら行動を調整している途中かもしれない、そう考える余地があること自体が、今回の研究から見えてきたポイントだと言えそうです。