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2024.03.21

オメガ3脂肪酸の種類によって変わるメリット。最新研究で分かった腸内細菌代謝物のお話

オメガ3脂肪酸の種類によって変わるメリット。最新研究で分かった腸内細菌代謝物のお話

猫の健康維持には、適切な栄養とそれに関する正しい知識が欠かせません。
しかし、豊富な種類のサプリメントや健康管理に役立つ食材の中から、どんな基準で何を選べばいいのか悩んでしまいますよね。

今回は、猫の健康維持に役立つ成分の中から、現在もさまざまな研究が進められている「オメガ3脂肪酸」に焦点を当て、その働きや適正な摂取方法、注意すべき点などを詳しく解説します。
さらに、注目されている腸内細菌や代謝物との関連についても触れ、猫の健康維持に役立つ情報をお届けします。

オメガ3脂肪酸とは?

オメガ3脂肪酸は、その名の通り脂肪酸の一種です。
「脂肪酸」は分析値の2番目にも表記される成分、いわゆる「脂質」の主要な構成要素です。脂肪酸は様々な結合の仕方で、いろいろな特長を持つ脂質を構成しています。
脂肪酸がどんなふうに結合しているかによってその働きが分かれます。

脂肪、と聞くと「太りやすくなる」「体に悪い」というイメージを持つ人が大半で、猫の健康維持のためには制限が必要なのではと思っている方もいると思います。
でも、脂肪酸は猫にとってエネルギー源となったり、細胞を作り保護したり、ホルモンをつくる際などにも使われる必須の栄養素です。適量をきちんと取り入れることが猫の健康維持にはとても大切なのです。

■ オメガ3脂肪酸ってどんなもの?

オメガ3脂肪酸は、その構造的な特長から「多価不飽和脂肪酸」の一種に分類され、猫が体内で合成することができない脂肪酸です。健康維持のために取り入れるなら、オメガ3脂肪酸を含む食事から取り入れる必要があります。
オメガ3脂肪酸をさらに細かく分類すると、魚の脂に含まれているDHAやEPAのほか、フラックスシード油などに含まれているα-リノレン酸などがあります。

オメガ3脂肪酸には、酸化しやすく不安定という特徴があり、時間が経つとその働きを失いやすくなっていきます。フレッシュな状態で取り入れることが健康に役立てるためのポイントの一つになります。

オメガ3脂肪酸の内、とくに健康維持に役立つ成分として注目されてきたものにはEPAやDHAなどがあります。それ自体でもさまざまな役立つ働きを持っているEPA、DHAなのですが、現在はオメガ3脂肪酸を代謝して作られた成分にも注目が集まっています。

猫の慢性腎臓病とオメガ3脂肪酸

近年、オメガ3脂肪酸が猫の腎臓に役立つ働きを持っているのでは…?ということで、再度注目されています。
猫の腎臓病が進行する要因はいくつか考えられていますが、オメガ3脂肪酸が持つ以下のような作用が、腎臓病の進行を抑える可能性があると考えられます。

■血小板凝集抑制作用

最新の研究では、慢性腎臓病の進行に血小板が作る微小血栓が関係していることが分かっています。血栓によって腎静脈(腎臓を出た血液が通過する血管)が詰まってしまう「腎静脈血栓症」と呼ばれる状態になると、腎臓の機能が損傷され、症状の進みが早くなると考えられています。

オメガ3脂肪酸には、この血栓をできにくくする作用があります。
人では「血液サラサラ成分」などとも呼ばれることがあるオメガ3脂肪酸の血小板の凝固を抑制する作用ですが、猫の慢性腎臓病の治療薬として承認されたベラプロストナトリウムの薬理作用にも、血小板凝集抑制作用が含まれています。

■抗高脂血症作用

オメガ3脂肪酸は、中性脂肪や悪玉コレステロールを下げる働きがあると考えられています。
猫に多い慢性腎臓病ですが、腎臓病になると高脂血症(コレステロールもしくは中性脂肪が高い状態)が引き起こされることが分かっています。高脂血症の状態が続くと、腎臓の糸球体(血液のろ過機能を持つ部分)の毛細血管の変性を起こし、高血圧につながることも。糸球体は血液の成分をろ過する「フィルター」のようなものなので、フィルターが上手く働かない状態をイメージしていただければ良いと思います。
このことが腎臓への負担を大きくし、結果的に腎臓病を進行させることになります。オメガ3脂肪酸にある抗高脂血症作用には糸球体高血圧を予防し、腎臓病の進行を防ぐことが期待されているそうです。

■抗炎症作用

オメガ3脂肪酸の抗炎症作用は、腎臓病の進行も抑えてくれることが期待されています。

オメガ3脂肪酸と腸内細菌について

さて、もう一つ最近注目されているオメガ3脂肪酸の健康維持に役立つ働きが、オメガ3脂肪酸を腸内細菌が分解することで算出される副産物の存在です。

オメガ3脂肪酸の内、α-リノレン酸を腸内細菌が分解したときにできる成分が、免疫細胞の一種であるマクロファージ(有害な存在を捕食する免疫細胞です)に作用し、アレルギー性接触皮膚炎を抑えることや、糖尿病の症状を改善することが判明しました。

a-リノレン酸は、くるみや菜種油、アマニ油に含まれている植物由来のオメガ3脂肪酸です。α-リノレン酸は、青魚の脂肪分に多く含まれるお魚由来のオメガ3脂肪酸のEPAとDHAの前駆体(もととなる成分)として注目されていましたが、今後はα-リノレン酸自体の重要性が増していくことになりそうです。

しかし、まだまだこの腸内細菌とオメガ3脂肪酸の関係については研究が進められている段階であり、はっきりしていないことも多くあります。例えばどのような腸内細菌が役立つ働きを持っているのか、そしてより免疫細胞への働きかけを効率的に行う条件など、今後明らかになることが期待されています。

おわりに

本日は猫にとって有益な働きをしてくれるオメガ3脂肪酸についてご紹介しました。
以前からずっと猫の健康維持に役立つ成分として活用されてきたオメガ3脂肪酸ですが、研究が進むにつれてさらにさまざまな面で取り入れられるようになってきています。
これまではEPAやDHAに代表される魚油に多く含まれる成分が人気でしたが、今後調査が進んでいくと亜麻仁油や菜種油のような植物由来の成分と上手く使い分けすることになっていくのかもしれません。

若い猫では、総合栄養食を食べていれば不足することはほとんどありませんが、シニア期に入った頃から適切に取り入れることでQOL(Quality Of Life=生活の質)を高めることが期待できる栄養素といえますね。