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2023.12.14

実は深い猫の慢性腎臓病と「貧血」の関係。症状と治療について

実は深い猫の慢性腎臓病と「貧血」の関係。症状と治療について

多くの猫が悩む慢性腎臓病。現在も研究者たちがこの病について研究を進めています。
一度失われた腎臓の機能は、現在の技術では以前と同じ状態に戻ることはありません。猫の慢性腎臓病でも、腎臓の機能が低下していくのを回復させる手段は見つかっていません。
でも、この病気について知り、学んでいくことで病気と闘う猫の暮らしを少し楽に、そして快適にすることはできるはずです。
今回は、そんな猫の慢性腎臓病に関するお話の中から、「慢性腎臓病と貧血」の関係についてご紹介します。

DOG's TALK

tamaの獣医さん 菱沼獣医師

tamaの獣医さん 菱沼獣医師

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです。

慢性腎臓病が進行した猫では貧血が見られます

猫の慢性腎臓病の症状というと、皆さまはどんなイメージを持っていますか?
食欲がなくなる、元気がなくなる、吐くようになる、脱水症状になる、痩せていく…。そんなイメージではないでしょうか。

これら以外にも、あまり知られていない症状のひとつに「貧血」があります。
実は、慢性腎臓病の猫のうちの32~65%(「日本獣医腎泌尿器学会誌」参照)が腎性貧血を発症するというデータもあります。

 

■慢性腎臓病の猫が貧血になるメカニズム

一見すると腎臓病と貧血って遠いような印象を持つ方も多いのではないでしょうか。でも実は深い関係があるんです。

まず、腎臓はエリスロポエチンという名前のホルモンを分泌しています。このホルモンは骨髄の中にある造血にかかわる細胞に働きかけて「赤血球を作ってください」という指令を出す大切なホルモンです。

慢性腎臓病になってしまった猫は、徐々に腎臓の機能が失われていきます。
この時、血液から尿を作る働きや血液から老廃物を取り除く働きと一緒に、エリスロポエチンを分泌する働きも少しずつ失われます。
すると体内のエリスロポエチンの量も減り、体内の赤血球がどんどん減っていってしまうのです。(猫の赤血球はだいたい74~82日が定命と考えられていて、エリスロポエチンが減少し新しい赤血球が供給されなくなると減る一方になります)
医療の現場では、このように、腎臓の機能低下に伴って引き起こされた貧血を「腎性貧血」と呼んでいます。

 

■腎性貧血のポイント

腎臓から分泌されるエリスロポエチンの量が減ることが貧血の原因の一つになっていますが、腎性貧血では腎臓の機能低下そのものも貧血の原因になっています。
腎臓の機能が低下していることで体内にとどまっている老廃物の中には、赤血球を壊してしまうものも含まれているためです。
猫の貧血状態が見られるのは、多くの場合慢性腎臓病の症状がかなり進行してからではありますが、事前にこういった変化が見られることについては知っておくことは大切だと思います。

新薬も登場!動物病院での治療について

腎性貧血状態になってしまった猫に対して、動物病院で採られることがある治療方針のひとつに、不足しているエリスロポエチンを補うというものがあります。
先ほどもお話した通り、エリスロポエチンは骨髄の中で血液細胞を作るための信号を出しているホルモンです。
エリスロポエチンを投与することで「赤血球を作れ!」という指令が骨髄に届くようになり、不足していた赤血球が作られるようになります。これにより、貧血の症状が改善されていくのです。
これまでエリスロポエチンは、猫用のもの(犬用も含む)は開発されておらず、人間用の薬を代用していました。しかし、2023年、猫用の薬剤が登場しました。

一方で、赤血球を作るための材料である鉄分を補給する必要があったり、腎性貧血の猫はとくに栄養不足に陥りやすいため、食事に含まれる栄養に配慮が必要だったりもします。
鉄分を補う薬では、食欲が低下している腎臓病の猫では嫌がる子も多いので、点滴や注射で補うケースも少なくありません。

担当の獣医師としっかり話し合い、どのような食事を与えていくのか、方針を定めていくことが大切になります。食事の内容や投薬などについて少しでも「なぜ?」「どうして?」と思うことがあれば、質問してみてください。

腎性貧血の猫と暮らす家庭でのケアについて

猫は他の動物(人間や犬)と比較してもとくに腎性貧血を起こしやすいといわれています。これは、猫という動物の特性によるものなのか、食事やライフスタイルによるものなのか、はっきりしていません。

また、腎性貧血は慢性腎臓病の進行度と相関関係があり、より腎臓の機能が低下していると起こりやすくなります。腎性貧血を発症する可能性はステージ3で高まるといわれますが、比較的早いステージで発症するケースもあるので、一概には言えません。
急にステージが進行し、命にかかわる事態に発展する可能性もあるので、猫の様子を普段から観察し「様子がおかしい」と思ったら、なるべく早く動物病院で相談できるようにしておくと安心ですね。

おわりに

今回は猫の腎臓病でたびたび見られる腎性貧血についてご紹介いたしました。
慢性腎臓病とひとことで言っても、猫の体に起こる変化は様々です。また、猫の体質などによって気になる症状もまちまちです。すべての猫が同じように症状が進行していくわけではありませんので「うちの子の場合はどうかな?」と注意して見守ってあげてくださいね。