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2023.11.30
ぽっちゃり猫の体重管理のコツが研究されているらしい。ポイントは「ゆる~く」!?
意外と多いぽっちゃり猫。
なんと、日本の家庭で暮らす猫の内、実に42%の猫が肥満、あるいは肥満気味体型に分類されるというデータも存在しています。
今、日本で暮らす猫たちにとって肥満はとても身近な問題になりつつあります。
人間同様、猫にとっても肥満=万病のもと。動物病院などでは体重管理を勧められたという方も多いのではないでしょうか。
そんな猫たちの「体重管理」に関する最新研究と、猫の肥満についてご紹介いたします。
猫の体重管理は難しいです
猫の体重管理は非常に難しいといわれています。
その理由は、ひとつではありません。
まず、猫は運動による消費カロリーのコントロールが難しいことがあります。毎日散歩に行くなど、飼い主がある程度運動量をコントロールできる犬に比べて、気まぐれな猫は運動量はどうしても猫次第になりやすい傾向にあります。
そして肥満になってしまったところで猫にはあまり不自由がなさそうに感じることも一因です。家でまったり過ごすことが好きな猫も多いので、肥満によって体重が増えたりしたところであまり不便そうには見えません。
また、ふくふくとした猫は可愛らしいこともあって、家族も危機感を持ちにくいのが現実です。
しかし、「なかなか体重は減らないし、猫も困ってないし、可愛いし良いんじゃないかな」とは言っていられません。
猫の肥満とリスクになるトラブル
猫の肥満がリスクとなるトラブルには以下のものがあります。
以下にまとめたトラブル以外にも、膀胱炎や尿路結石などのおしっこトラブルも、肥満気味の猫ではより高リスクになることが知られています。
■脂肪肝(肝リピドーシス)
肥満状態の猫で優位にリスクになることが分かっているのが、脂肪肝(肝リピドーシス)と呼ばれる病気。
こちらは猫の命に係わる病気になります。
肥満状態の猫が何かしらの理由により、絶食状態になってしまったら要注意。
エネルギー不足を補うために、体は肝臓で脂肪からエネルギーを作り出そうと動き出します。
体に付いた脂肪をエネルギー源として使う分には、まったく問題ありません。
しかし、完全絶食状態が続くと肝臓はエネルギーを作り出すために、さらに脂肪をたくさん取り込もうとします。
猫は肝臓に入ってきた脂肪を上手に変換できず、たまりすぎた脂肪分が肝臓の細胞に混じり、肝臓の機能が正常に働かなくなることがあります。
これが脂肪肝(肝リピドーシス)という状態です。
変質してしまった肝臓は機能が低下し、徐々に肝不全の状態となり、適切な治療を受けられない場合は命に係わる事態になります。
肥満状態の猫が3日以上絶食状態となると、発症確率が上がるというデータがあります。
■関節や靭帯などのトラブル
本来、高い身体能力を持っている猫。
身軽でしなやかな身体は、本来であれば怪我などのリスクは低いものです。
しかし、体重が増えることで、関節、骨を支える靭帯に大きな負担がかかることになります。このことが、脱臼や骨折、関節炎といったトラブルのリスクを大きくすることにつながります。
また、背骨への負担が増えることで、椎間板ヘルニアの危険も増えます。とくに特定の猫種の血を引く猫(スコティッシュフォールド、マンチカン、アメリカンカールなど)では重症化したりするケースもあります。
どれも痛みを伴う病気なので、猫にとっても家族にとっても辛い病気です。
■糖尿病
肥満状態の猫で優位に発生しやすくなるトラブルの中には、糖尿病もあります。
糖尿病は、猫の血液中に含まれる糖が多いために、さまざまな症状が見られる病気です。
通常、糖をエネルギー源として使用する際には、インスリンと呼ばれるホルモンが分泌されます。インスリンは糖の量に応じて分泌されるのですが、糖尿病の猫の体内では、インスリンが出ているが不足している(糖尿病Ⅰ型)、もしくは、インスリンが出ているが身体が反応しない(糖尿病Ⅱ型)という大きく分けて2つのタイプが存在します。
インスリンが不足、上手く機能しない状態では、細胞は糖を取り込むことができず、十分なエネルギーを作れないためにどんどん飢餓状態になっていきます。逆に血液中には取り込まれないブドウ糖が溢れ、尿中に漏れ出します。
この状態を糖尿病と言います。
猫の糖尿病は症状や発症までの経緯が人の糖尿病でいうⅡ型糖尿病に近いといわれています。
最新研究で判明した「猫の体重管理のコツ」
病気やトラブルの重大なリスクとなる、猫の肥満。どのように管理を行っていくべきか、ぽっちゃり猫と暮らす世界中の人々が悩んでいました。
そんな問いに対する一つの答えになるかもしれない、そんな研究が現在進められているそうです。
イギリスにあるリバプール大学では、肥満状態の猫の体重変化に関する研究を行っています。
今回の実験では、健康的(ただし肥満・肥満気味)な猫50頭以上の家族に対して、(1)あるいは(2)の情報を伝えて体重管理を行ってもらったそうです。
■ 研究におけるグループ分け
★(1)のグループ
猫の理想体重よりも10%ほど重い体重を目標体重として伝えた
★(2)のグループ
猫の理想体重通りの体重を目標体重として伝えた
(2)のグループでは、現在行われている猫の体重管理で多くの人が目標とする体重が、(1)のグループでは、目標体重はちょっと甘めの設定となっています。
それぞれのグループで同じように食事管理を行ってもらったところ、驚きの結果が得られたそうです。
★猫の体重管理は「ゆる~く」がコツ
なんと、猫の体重管理に関してはちょっとゆるい目標設定となっている(1)のグループの方が、より早いペースで猫の体重が減っていたことが分かったのです。
(1)のグループの猫では平均178日(54~512日)でプログラム開始時の体重から25%の減量に成功したそう。
一方で、従来の目標設定(2)で体重を行った猫のグループでは、平均294日(113~967日)でプログラム開始時の体重から23%の減量にとどまりました。
その差は一目瞭然です。
与える食事に違いはないのに、通院回数も少なく、短い期間でしっかり結果を出した(1)のグループ。
目標体重には及ばなくても、その時点まで減らすことができれば体重管理のための取り組み(適度な運動)が定着し、徐々に代謝が上がっていくため結果としてより早く効果が出たのでは…という指摘もあります。
猫の家族にしてみるとより緩やかな目標の方が「挑戦しやすい」「目標に近づいている実感がある」などの理由で、心理的ハードルも低い分継続しやすくなっているのかもしれません。
現在、このゆるい目標設定はPartial weight reduction protocol(部分的減量習慣)という名前で、研究が進められている最中です。
大体どれくらいの体重を目標にすれば、もっとも効果的に猫の体重を減らすことができるのかが解明できれば、猫の健康寿命もさらに延びていきそうです。
これからの猫の体重管理では、理想体重を厳しく目指すのではなく、どのようなペースでどれくらい体重を減らしていくのかを考慮した「ゆるい体重管理」がメジャーになっていくのかもしれませんね。
参考文献
*1 Partial weight reduction protocols in cats lead to better weight outcomes, compared with complete protocols, in cats with obesity(2023) https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2023.1211543/full
おわりに
今回は猫の肥満に潜むリスクと、猫の体重管理に関する最新研究をご紹介しました。
人間では万病のもと、と呼ばれる肥満ですが、猫でも様々な病気のリスクとなりえます。可愛いからついつい甘やかしてしまいそうになりますが、時には冷静に猫の体重変化を見て判断することも必要です。
また、管理が難しいといわれていた猫の体重ですが、最近の研究ではより効率的に減らすことができる目標設定などについても研究が進められています。
猫の理想体重をなかなか達成できないことに悩んでいる方や、少しずつしか体重が減っていかないことを気にしている方も多いですが、猫の体重管理の考え方が変われば、少しずつ減っていく体重変化が理想的な推移と呼ばれるかもしれません。少しずつでも体重が変化しているようなら体重管理は成功です。小さな積み重ねが大きな成果につながりますので、ぜひ前向きに頑張ってみてください。