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2023.10.05
猫の爪とぎ、減らすことはできるの?研究論文から考えました【猫研究所】
猫は何をしても可愛い生き物ですが、一緒に暮らしているうちに、猫の行動に困ってしまうという方もいるかもしれません。
猫の困った行動の一つとしてよく言われるもののひとつとして挙げられるのが、「爪とぎ」です。
家具や壁紙、障子やふすまなど、家族が望まない場所で爪とぎをしてしまう猫たちに手を焼いている…という話を聞いたことがある方も多いと思います。
そこで、今回はなぜ猫が爪とぎをするのか、問題を解決するヒントはあるのか、猫に関連する研究なども含めて、スタッフ猫たちと一緒に改めて考えてみましょう。
どれくらいの人が猫の爪とぎに困っているの?
皆さま、猫たちの爪とぎに悩まされた経験はありますか?
時々、猫の爪とぎによって壁紙やふすまなどがボロボロになってしまったという方のお話を聞くことがあります。
実際、猫と暮らしている人のうち、どれくらいの割合の人が猫の爪とぎに悩んでいるのか調査した論文によると、猫と暮らす人の83%が猫の何かしらの行動に悩んでいると回答しているそうです。
そのうち、猫の爪とぎに関する悩みが最も多く、不適切な場所での爪研ぎ に悩む人は34.9%に及ぶという結果も出ています。
この調査自体はデータが古いものですので、現在とは猫と暮らす環境や家族の知識レベルに違いがあることは考慮すべき点です。しかし、猫との暮らしの中で悩む人が多い困りごとの一つとして「爪とぎ」があるのは確かなようです。
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ゴロー
ややっ、そんなにたくさんの人が爪とぎに困っていたでありますか?
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ムー
でも、どうしてそんなに爪とぎに困っているのかしら?ムーにはよく分からないわ。
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ランラン先生
そうですよね、猫にしてみれば当たり前の行動なのですが…まずは私たち猫にとって爪とぎがどのようなものなのか、改めてチェックしていきましょう。
猫が家の中で爪とぎをする理由
猫にとって爪とぎは家族を困らせるために行う行動ではありません。猫たちの爪とぎには猫なりの理由があるのです。
猫が爪とぎをする代表的な理由は以下の通りです。
■なわばりの主張、マーキング
猫の仲間の肉球には、自分のニオイを放つ臭腺があります。
野生のネコ科の動物やそれに近い動物たちは、木などに爪とぎをすることで自分のニオイをつけ、自分の縄張りを主張しています。人間と一緒に暮らすようになったとはいえ、猫は野生動物の習性も色濃く残す動物。今でも縄張りを主張する子がいてもおかしくはありません。
また、爪とぎをして残した爪跡にも立派な意味があって、爪とぎがより高い位置にあれば、体が大きな動物がいたことの動かぬ証拠になります。動物の社会では、体が大きいことはそれだけで強さの指標となります。
弱い動物は高い位置にある爪跡を見るだけで逃げ出すこともあるそうです。
高い位置に爪跡を残すことができれば、縄張りを守ることができる確率が上がるので、もしかしたら猫たちの中の野生がそうさせているのかもしれません。
■ストレス解消、気分転換
猫にとって爪とぎはリフレッシュの手段にもなっているようです。
ちょっとイライラしたりストレスを感じたときや、寝起きなどに、気分を切り替えるために、バリッバリッと爪とぎをする子が一定数います。
不安感が強くなったり、緊張しているときなどにも爪とぎをする子がいますが、これは気持ちを落ち着かせるために行っていると考えられています。
猫にとって爪とぎは、ちょっと疲れたときのコーヒーやお菓子のような存在でもあるのかもしれません。
■家族に対するアピール
猫の中には、家族に対して自分の存在をアピールする方法として爪とぎをする子もいます。家族の方を見ながら元気いっぱい爪とぎをする子は、おそらくこのタイプ。
不適切な場所で爪とぎをした場合、家族が慌てて駆け寄ってきたり「ダメよ!」と声をかけたりしたことで、爪とぎをすれば家族に構ってもらえると学習してしまった可能性があります。
可愛いアピールではあるのですが、もしもそれが家族にとって都合が悪い場所での爪とぎ(家具、カーテン、カーペット、壁紙など)であるようなら、別の場所で爪とぎをするように誘導し、そのたびにかまってあげる必要があるかもしれません。
■猫の健康維持
最後に、猫の健康維持にも爪とぎは必須です。
本来、狩りをする動物である猫にとって、爪は獲物をとらえたり、自分の身を守ったりするための大切なもの。できればベストなコンディションをキープしておきたいのです。
猫の爪は古くなると表面の層がはがれ、新しい爪の層に入れ替わって常に良い状態をキープできるようになっています。
爪とぎは、表面の古い爪の層をはがし、するどい爪を出す働きがあるといわれています。
また、爪が伸びすぎてしまうことで爪がひっかかりやすい個所でも安全に動けるように、伸び過ぎた爪をケアする意味もあります。
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王子
僕の場合はお腹が減ったとき、遊んで欲しいときにベッドのマットレスで爪とぎをするのだ。家族が寝ていても慌てて跳び起きてくれるし、効果てきめんなのだ。
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ランラン先生
ベッドが揺れるからでしょうねぇ…。
猫の爪とぎは「爪とぎスペース」でさせるべき?
猫の爪とぎには様々な意味があることが分かりました。猫にとって爪とぎが大切なことも分かっている「だからこそ適切な場所でしてほしい」、「猫のために爪とぎを用意したのに使ってくれない」という方も多いのではないでしょうか。
猫の動物としての習性を考えると、決まった場所で爪とぎをする生き物という訳ではありません。縄張りを主張するのであれば、縄張りの範囲内のさまざまな場所で爪とぎをするのが普通ですし、ストレス解消のために爪とぎをしているようであれば、ストレスが溜まったときにバリバリとやってしまうのも無理はありません。
家具や壁紙、ふすまなどに爪とぎをされて困っている、という場合であっても、たまたま猫にとって爪とぎがしやすい場所や位置、とぎ心地が良いものが家具や壁紙だったというだけです。
そして同時に、家具や壁紙以上に猫が爪とぎしやすい、快適だと感じる場所や位置に爪とぎを設置することができれば、そちらで爪とぎをしてくれるようになる可能性が高いのです。
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ランラン先生
猫は「一番爪とぎしたいところで爪とぎする生き物」です。せっかく用意してもらった爪とぎでも、場所が落ち着かなかったり、好みの素材じゃないと使わないことがあります。そのことを叱られても、なぜ怒っているのか分からないのです。
猫が好きな爪とぎって?
一般的に猫の爪とぎとして良く売られているタイプのものには以下のものがあります。
・段ボール製のもの
・ポールにロープを巻き付けたもの
・カーペットのような布を巻き付けたもの
・木製のもの
日本国内でよく見かけるのは、段ボールを利用したものか、ロープを巻いたものでしょうか。
アメリカでは市販されている猫用爪とぎに関して、どのタイプがもっとも猫に愛用されているのかについて調査した結果が出ていました。
最も使用率が高かったのは、ロープタイプ(36%)、次にカーペットタイプ(30%)、段ボールタイプ(22%)と続きました。
また、設置する高さや爪とぎのタイプに関しても一定の傾向が見られたようで、2段以上のキャットタワーに爪とぎが付いているものが一番使用率が高く、次に地面に垂直に立てられるポールタイプが多いという結果になりました。ここまでで過半数の猫がいずれかのタイプを選ぶ傾向にあるようです。
引用元
*1 Owner observations regarding cat scratching behavior: an internet-based survey Colleen Wilson et al. Journal of Feline Medicine and Surgery, Vol 18,Issue10,pp.791-797,doi:10.1177/1098612X15594414
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ランラン先生
ちなみに、皆さんはどんな爪とぎが好きですか?
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ゴロー
ボクちんはソファでありますねー。ちょうどいいところに爪が引っかかるであります。
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ムー
分かるわ~、私もなんだかんだ言ってソファに戻っちゃうのよね。程よく疲れたら、ソファで寝られるのもいいわよね。
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王子
僕はソファのひじ掛けの部分が一番好きなのだ。力いっぱい爪とぎしても動かないし。
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ランラン先生
えー…。この研究所の一番人気はソファのようです。
家具や壁紙での爪とぎをやめて欲しいときの対策
猫に家具や壁紙で爪とぎをするのをやめて欲しい時には、以下のポイントをチェックしてみてください。
■猫に適した爪とぎの素材になっているか?
猫ごとに好みの爪とぎの素材があるようです。現在おいてある爪とぎが猫の好みに合っていないだけの可能性があります。
■キャットタワー一体型、あるいはポール型の爪とぎが人気
猫は床に置くタイプのものよりも、垂直になっているタイプの爪とぎを好む傾向にあるようです。
■リラックスできる場所に置いていますか?
猫にとって爪とぎは縄張りを主張するだけではなく、ストレス解消やリラックスの手段でもあります。
爪とぎを置いている場所が玄関の近くだったり、多くの人が通るような場所だと落ち着いて爪とぎできていないのかもしれません。
■ ちなみに:こんな研究もされています
日本国内では、大学の研究機関で遊びながら爪とぎの仕方を教える、そんな爪とぎの開発が進められています。
宮城大学では、猫の爪とぎポールにCGアニメーションを投影することで、猫が視覚的に興味を惹かれ、オモチャで遊ぶように爪とぎポールを使うようになる…というスグレモノ。
ポールに映し出される映像は、猫が喜びそうなネズミのイラストのほか、光が軌道を残しながら移動するものなど、家族がタッチパネルで操作し、動かすこともできるとか。
レーザーポインターのオモチャのように、猫の遊び欲を満たしながらも、爪とぎの使い方を教えることができればまさに一石二鳥ですよね。
参考文献
*1 佐々木 梨菜, 鈴木 優. sCrATch!:物理的な触覚を付与する猫じゃらし. インタラクション2019論文集, pp.933-934, 2019年.
おわりに
今回は猫の爪とぎに関しての研究をご紹介いたしました。皆様の家の猫たちはどんな爪とぎを愛用していますか?
猫にとって爪とぎは非常に重要な行動です。それだけに爪とぎの素材や形、設置場所にはこだわりを持っている子も少なくありません。
家具や壁紙で爪とぎをされて困っている、という方、せっかく用意した爪とぎを使ってくれず困っているという方は、ぜひ今回の研究結果を踏まえてチェックしてみてくださいね。