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2023.09.21
なぜ「リン、カルシウム」に気を付けた方が良いの?猫の腎臓とミネラルの話
多くの猫がかかるといわれる慢性腎臓病。
慢性腎臓病になった猫が意識するべき栄養素としてよく挙げられるのが、「リン」です。
そしてそのリンと一緒に摂取することが推奨されているのが「カルシウム」なのですが、これっていったい何故なのでしょうか?リンとカルシウムが重視される理由は一体何なのでしょうか?
今回は猫の慢性腎臓病に深く関係する「リン」と「カルシウム」、またそのバランスについてもご紹介いたします。
慢性腎臓病になる猫は多いです。
猫は、他の動物と比べても慢性腎臓病になる子が多いといわれています。
腎臓病は、血液から尿を作るネフロンと呼ばれる血液のフィルター機能が低下したり、機能しなくなってしまうことで起こります。
とはいえ、急に腎臓の機能が停止してしまうのではなく、何十万ともいわれているネフロンが少しずつ機能を低下させていき、全体の1/4程度までネフロンの機能が落ちてしまって初めて腎臓病の症状が見られるようになります。
ですから、「猫の様子がおかしい」と気が付いた時には、腎臓の機能はかなり低下してしまっている…ということが少なくありません。
腎臓では一度作った尿を再吸収し、濃縮した尿になってから排出するのですが、猫は飲水量が少なく、尿の量も少ないため、濃い尿を作ることになり猫の腎臓には負担がかかり、猫は腎臓病になりやすいのでは…とも考えられています。
でも、猫が慢性腎臓病になりやすい理由はほかにもあります。
最近では、腎臓のネフロンの目詰まりをお掃除するAIMタンパクと呼ばれるタンパク質の働きが、ほかの動物とは少し違う…ということが分かり、これが特に猫で腎臓病が多い原因なのでは?という研究が進められています。(詳しい猫のAIMタンパクと腎臓病との関係についてはこちら:猫で腎臓病が多発する原因を解明?!AIMタンパクとは?)
猫の腎臓と「リン」の関係
猫の慢性腎臓病について調べていると、必ずと言っていいほど登場するのが「リン」です。この成分は猫の腎臓とどのような関係があるのでしょうか。
リンは、腎臓のろ過フィルター・ネフロンが詰まっている状態=腎臓の機能が低下している状態だと、ろ過されず、体内にどんどん蓄積されていってしまうのです。本来であれば、腎臓でろ過されたリンは不要なものとして、おしっこで排出されます。しかし腎臓の機能が低下していると、排出できないリンの濃度は血液中でどんどんと高くなっていくばかりになります。
このことから、慢性腎臓病になってしまった猫はリンを上手く排出できなくなるために「食事中に含まれるリンの制限」が必要になります。
高リン血症になった猫の体の中で起こること
血液中のリン濃度が高くなると、異常事態を感知してリンの濃度を一定に保とうとするホルモンが放出されます。
また、このホルモンは血液のカルシウムが少ない場合、骨を溶かして血中カルシウムを増やそうとします。
リンとカルシウムは非常に結びつきやすい性質を持っているため、リンもカルシウムも濃度が高い血液中では、血管や腱など本来骨ではない部分でも結合してリン酸カルシウムという結晶を作ります。この現象を石灰化と言います。
高リン状態が続くと、リンとカルシウムは体内の様々な場所や臓器で結合するようになり、石灰化を進めて病気を悪化させる一因となります。
一方、非常に結合しやすいリンとカルシウムの特長は悪い面だけではありません。リンとカルシウムが結合してしまうのは血液中だけではなく、消化管の中でも結合してリン酸カルシウムになります。
消化管の中でリン酸カルシウムの状態になってしまえば、リンは体内に吸収されないため、ウンチとしてそのまま排出されることになります。カルシウムと結合したリンは体内に取り込まれないのですから、同じようにリンを含む食べ物を食べても血液のリンの濃度は上がりにくくなるのです。
通常時であれば、食物中に含まれるすべてのリンがカルシウムと結びついてしまうという訳ではありませんから、ある程度の量は吸収されます。
このことを活かして、動物病院では慢性腎臓病の猫の治療の一つとしてカルシウム剤を利用し、食事に含まれるリンが体内に取り込まれにくい形にして、血液中のリンの濃度を上げないようにすることがあります。
健康的な猫がリンとカルシウムのバランスを意識するべき理由
猫の慢性腎臓病の厄介な特徴に、腎臓の機能が時間をかけて少しずつ失われていくという点があります。特定のきっかけがあって腎臓の機能が失われる急性腎臓病とは異なり、慢性腎臓病は緩やかに進行していきます。
明確な予防法はない慢性腎臓病ではありますが、リンが過剰にならないよう意識した食事内容にすることで、慢性腎臓病の進行をゆっくりにすることが分かっています。
本来肉食動物である猫は、その食性から食事中に含まれるリンは多くなってしまいがちです。
いつごろから腎臓の機能が低下し始めているのか、はっきり特定することは難しいというのが正直なところではありますが、少しずつ腎臓の機能が低下していくことを考えると、猫が中年期に差し掛かる6歳前後の頃からリンの値に気を付けた食事や、リンが過剰にならないよう、カルシウムとのバランスを考慮した食事を与えることは効果的と言えそうです。
高齢とはいえない、6歳前後の頃から栄養バランスを意識した食事を与えることを推奨している獣医師もいます。
リンとカルシウムの理想のバランス
リンとカルシウムを同時にバランスよく摂取する取り組みですが、実際どれくらいのバランスが理想的なのでしょうか?
リンの摂取量:カルシウムの摂取量の比率は、1:1~1:2くらいがまでが良いとされています。
しかし、この基準は厳密なものではありません。ほかの食材に含まれる栄養成分の影響もありますので、一概には言えないのが現実です。
ここまで紹介してきた情報からは「リンは厄介な成分」という印象を持ってしまう方も多いと思います。でも、実際は骨や歯の健康維持のほか、細胞膜を健康的に作るためにはリンは必須の栄養素。ある程度は取り入れる必要があるのです。
ただ、純粋な肉食動物である猫の食事にはどうしてもリンが多く含まれる傾向にあります。
リンは肉、魚のほか、ミルクや植物性のタンパクなどにも入っているため、どうしても多めに摂取することになってしまいがちです。
プレミアム品質の総合栄養食だけを与えていれば、極端にリンが多いということにはなりません。ただ、オヤツや副食としてウェットフードなどを与えることで、リンが多くなってしまうという事態に陥りやすくなります。
そこで、高齢になって腎臓の機能が低下している可能性がある猫では、副食やオヤツを与える際は主食の量を調整するほかにも、なるべくリンとカルシウムのバランスが調整されているものを選ぶと安心です。
おわりに
今回は、猫の慢性腎臓病と深く関係する「リンとカルシウムのバランス」について深掘りしてみました。
慢性腎臓病になっている猫では「リンの制限」が、慢性腎臓病の診断は受けていないけれど腎臓の機能の衰えが気になる猫の食事では「リンとカルシウムのバランス」がキーワードになります。
腎臓の機能が元気な若いうちからリンとカルシウムのことを意識する必要はありませんが、知っておくと「いざ」という時にきっと役立ちます。