猫の救世主になる？MCTオイルについて獣医師さんと一緒に深堀りしてみよう！

中鎖脂肪酸とも呼ばれることがあるMCTオイル。
人間のダイエットを始めとして、健康管理に役立つ成分として人気が高まりつつありますが、猫にとってもたくさんのメリットがあることが分かっています。
以前のコラムでは、MCTオイルがどのようなものなのか、どんな成分があり、どんな特徴を持っているのかについてご紹介いたしました。(前回のコラム：MCTオイル(中鎖脂肪酸)ってどんなもの？基本的な情報について調べてみました[#調査隊レポート])

今回は、獣医師と一緒により深く猫の健康とMCTオイルの関係について学んでいきましょう。

DOG's TALK

tamaの獣医さん　菱沼獣医師

獣医学部を卒業後、動物病院での臨床・栄養指導を経験した後に公的機関で獣医師として勤務。現在はtamaのアドバイザー、商品開発などに携わる。中型犬、小型犬と一緒に暮らしていますが、猫のことも大好きです。

MCTオイルの基礎知識
猫の膵炎にMCTオイルが役立ちます
MCTオイルが猫の腎臓病治療に期待される理由
おわりに

MCTオイルの基礎知識

MCTオイルは、以下の特長を持つ油を指します。

・植物由来の中鎖脂肪酸だけを抽出した油
・脂肪酸の長さが中くらい
・消化・吸収・分解されやすい
・エネルギーに速やかに変わる

中鎖脂肪酸は、体内で速やかにエネルギー源として代謝されます。そのため、食が細くなっている猫や様々な事情で食事を上手く消化吸収できない猫の栄養補給に役立つものとして期待されています。
エネルギーに代わるスピードは、一般的な脂質と比べて実に4倍も早いといわれています。

速やかにエネルギー源に代わる、という部分以外でも猫の健康維持に役立つ特性から、MCTオイルは幅広く活用できそうです。

MCTオイルの活用猫のてんかんにMCTオイルが役立つって本当？

実は、人間ではMCTオイルに含まれる中鎖脂肪酸は「認知症予防」「てんかん発作の改善」に効果があるという研究もされています。医療の現場でも活用されることが多くなってきています。
ですが、実のところ猫のてんかんの治療でMCTオイルを取り入れたことで症状が改善された…という事例はまだまだ少なく、エビデンス(裏付け)が十分ではないというのが正直なところです。

とはいえ、てんかんの発作を起こした犬にMCTオイルを与えることで、ある程度症状をコントロールすることができたという実験結果もありますから、より詳細なことが分かっていけば、実際に食事療法食などで取り入れられるようになっていくかもしれません。
今回の結果は原因がはっきりしないてんかん(特発性てんかん)の持病を持つ犬にケトン食と呼ばれる特殊な食事療法を与えていきながらMCTオイルを投与した結果です。
まだ、MCTオイルだけでてんかんが良くなった…とは言い切れませんが、研究が進むのを見守るのが良いと思います。

参考文献

*1 　A randomised trial of a medium-chain TAG diet as treatment for dogs with idiopathic epilepsy

MCTオイルの活用MCTオイルが猫の腎臓病治療に期待される理由

MCTオイルは、猫の腎臓病の治療の現場でも多くの期待を寄せられています。
猫の腎臓病というと「リン」などの栄養制限などを意識することが重視されてきましたが、それと同じくらい大切なのが、痩せないためにいかにエネルギーを確保するかということです。

慢性腎臓病になってしまった猫は徐々に症状が進行していきます。腎臓の機能が低下しつつも、まだ元気で食欲がある猫であれば、食事を療法食に切り替えることで腎臓へのケアを行うことは可能です。(もちろん、動物病院で定期的な経過観察は適宜行うことが大前提です)

しかし、ある程度まで腎臓の機能が低下すると食欲が低下し、それに付随して体力が低下してさらに食欲が衰えていく…。という悪いループに入り込んでしまうことも少なくありません。
さらに、数少ない食べさせられる療法食も一般食と比較すると嗜好性が低い傾向にあるため、病状の進行も相まっていよいよ食が細くなり猫自身が低栄養になりがちです。

十分な量の食事がとれなくなってしまうと、十分な栄養を取り入れることができず、エネルギー不足や低栄養に陥り、今度は猫の体は筋肉を分解してエネルギーを確保しようとします。
こうなると、生きていくために必要な筋肉もどんどん痩せてしまい、基礎的な体力を奪うことにもなってしまいかねません。

そこで注目されているのが、MCTオイルの「速やかにエネルギーに代わる」という特性です。速やかに無理なくエネルギーの補給に繋がるMCTオイルを食事に取り入れることで、少ない量でも効率的にエネルギーを作ることができ、基礎的な体力を維持することや筋肉の分解を防ぐことに繋がります。
腎臓病が進行して食事の量そのものが減ってしまっている猫にとっては、短い時間でより大きなエネルギーを作ることができるMCTオイルはありがたい存在です。

程度に違いはあれど、腎臓病と付き合っていくことになる猫たちの栄養源として非常に重要な成分となっています。

※注意事項！
猫に人間用に市販されているMCTオイルなどを与えることに関しては、慎重に判断する必要があると思います。猫にとっての適量が分かりにくいことや、過剰摂取は軟便や下痢に代表される体調不良の原因になることもあります。

MCTオイルを適切な方法で猫にとって最適な量を摂取できるキャットフードなどを選んで与えることができれば、安心ですね。

おわりに

MCTオイルは人間では健康維持のために役立つ成分として注目が集まっていますが、猫においてはより医療の場面での活躍が注目されている面があります。
今後、猫の様々な病気の治療で実際にMCTオイルが使用されることが増えるかもしれません。現在はまだ研究段階のものであっても、将来的には私たちと猫がより長期間一緒にいられるようになる助けになる可能性を秘めています。